自衛隊「宇宙作戦隊」の理想と現実 ロシアや中国では「衛星を攻撃する兵器実験」も
初の商業宇宙戦争
世界はコンステレーションの技術を競う時代に突入しています。その現状を見ておきましょう。
最先端を走るのがスペースX社です。数千機の小型衛星で構成する同社の「スターリンク衛星コンステレーション」は、高度約550キロの低軌道に衛星を数千も配置しているため、静止軌道(高度約3万6000キロ)で運用する大型衛星に比べて、遅延時間の少ない高速通信を提供できます。また、仮に数機がサイバー攻撃などで機能を喪失したとしても、膨大な数で運用されているため、瞬時に他の衛星群で機能を補うことが可能です。
22年2月のロシアのウクライナ侵略直後に、ウクライナ副首相兼デジタル変革大臣ミハイロ・フェードロウが、スペースX社のイーロン・マスク氏にX(当時の名称はツイッター)上で直接、スターリンクによる通信サービスの援助を要請しました。それが受け入れられて、ウクライナの軍隊と市民生活が通信途絶から救われたことは、この戦争が「初の商業宇宙戦争」と称されるきっかけとなるほど画期的な出来事だったのです。
世界はがぜん、大規模衛星コンステレーションが提供する通信サービスの利点に注目するようになりました。このスターリンクは、25年8月現在7800機以上で構成していると推測されます(今年に入ってから1300機程度増加)。さらに同社は、次世代型として3万機のコンステレーション構築を目指しています。
スターリンク以外で現在運用されている例としては、最近フランスのユーテルサット社に買収された英国のワンウェブ社が648機を打ち上げて、一応構築を完成させています。
軍事利用禁止で遅れた日本
米国と宇宙覇権を争う中国の取り組みはどうでしょうか。
中長期的には、この分野でも同国の主として国有企業がスターリンクのライバルになるであろうと推測されていますが、その開発は緒に就いた段階です。1万2000機程度で運用する「国網」計画をはじめとして、少なくとも三つの企業がスターリンクに比肩するプロジェクトを構想していますが、昨年から打ち上げが開始されたところです。
今年の初夏以降、打ち上げ頻度が上がったと注目されてはいますが、いまだ合計しても150機程度が打ち上げられたに過ぎません。大型コンステレーション構築のためには、寿命の短い小型衛星の入れ替え分も含めて、膨大な衛星を製造し、順次打ち上げる必要があります。衛星製造能力に加えて、十分な打ち上げ能力も要求される。ロケットと衛星双方の開発、製造、運用を行うスペースX社だからこそ可能な形態のプロジェクトともいえ、中国が追随することはそれほど容易ではないでしょう。
翻って日本はというと、長く続いた宇宙の軍事利用禁止政策のため、自衛隊の衛星保有は、宇宙先進国の中で最も遅い17年に始まりました。現在ようやく3機のXバンド防衛通信衛星を保有するという状態であり、しばらくは3機体制にとどまらざるを得ません。
そこで、補完的に内外の衛星通信業者からの通信サービスの購入や、さらには米国やその他同志国との衛星通信相互運用などの可能性が模索されています。
[4/6ページ]

