自衛隊「宇宙作戦隊」の理想と現実 ロシアや中国では「衛星を攻撃する兵器実験」も

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日本は何をすべきか

 そのためにはどうすればよいか。政府が22年に策定した「国家防衛戦略」は、日本への侵攻を阻止・排除し得る能力を獲得するために、まず、抑止能力としての「スタンド・オフ防衛能力」と「統合防空ミサイル防衛能力」の強化を掲げています。

「スタンド・オフ防衛能力」は、日本に侵攻してくる艦艇や上陸部隊に対して、その射程圏外から地対艦ミサイルなどにより脅威を排除する能力です。

「統合防空ミサイル防衛能力」は、周辺国からのミサイルの脅威に加え、近年高まった、地上配備レーダーでの捕捉が困難な極超音速滑空兵器(HGV)の脅威に対抗する能力のことです。

 昨今、中国やロシアが配備し、北朝鮮が開発を進めるHGVへの備えが急務とされていますが、第一に日本周辺を移動する目標や滑空段階のHGVをリアルタイムで宇宙から探知し、追尾する「迅速かつ的確な戦況把握」が求められます。次に、把握した戦況を、現場で速やかに意思決定できるように伝達しなければなりません。ここでは超高速の衛星通信システムの整備も必要となります。

 そして、敵側の妨害をかわし、宇宙システムが適切に運用されるための機能保証が重要であり、その中心が衛星防護となります。今回の「宇宙領域防衛指針」は、こうした「戦況把握」「衛星通信」「機能保証」の具体的な方法について明記しています。

日本企業にも可能性が

「迅速かつ的確な戦況把握」はどうしたら可能でしょうか。継続的な目標物体の探知や追尾能力の要となるのは、情報収集衛星コンステレーションの構築と、安定した大容量通信を可能とする衛星間光通信です。

 衛星コンステレーションとは、多数の小型衛星を低軌道で連携させて運用し、機能の最大化を図る利用方法のことです。画像情報を取得するときには、通常、数機から数十機程度の衛星を動かします。

 日本周辺、東西南北、それぞれ約3000キロに及ぶ広大な領域に点在する、怪しい動きを把握するためには、情報収集衛星コンステレーションが不可欠です。高分解能の画像を、同一場所で頻繁に撮像することができるように、高度数百キロの低軌道に複数の衛星を配置して利用する必要があります。

 ロシア・ウクライナ戦争ではこの技術が大いに活用されました。前に触れたアイサイ社は、戦争勃発時には分解能50センチの全天候型SAR画像を送ることが可能な18機のコンステレーションを運用していました。分解能とは、異なる2点を認識できる最小距離のことです。一説によると、衛星1機分の能力すべてをウクライナ軍の利用のために提供しているといわれています。

 日本でも、こうした衛星の能力は、防衛省・自衛隊が単独で整備するだけではありません。他の宇宙先進国と同様、日本にも小型SAR衛星コンステレーションの開発を進める企業が複数社あります。そこでの開発が成功すれば、自衛隊が構築する情報収集衛星コンステレーションへの力強い支援・補完となることが期待されます。

 アイサイ社は大学発ベンチャーとして14年に設立された新興企業であり、フィンランドはそれ以前、宇宙で目立った成果を出していたとはいえません。こうした例からも、日本企業にも十分可能性はあると考えられます。

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