目覚めると「2人の外国人男性」とベッドで添い寝…聡明な「女性薬剤師」はなぜタイでドラッグに溺れたのか
「君は合意して、俺たちの部屋に来たんじゃないか」
「Kを吸うといつもは身体が軽くなるのですが、この時は眠気の方が強くて。純度が高かったのか、それも強いBZP(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)が混ぜられていたのもしれません。急激に意識が低下して、ぼおっとした状態で“部屋で休もうか”と言われたのが最後の記憶です。強烈なだるさと違和感を覚えて目覚めると、大型ベッドの上でした。それも半裸状態。裸で毛むくじゃらのアメリカ人の男と、下着姿のガリガリの男が添い寝していた。“えっ、なにこれ!”とたまげて体が凍えちゃいました。でも、何があったのか思い出せなくて……」
――分かった。もうその辺でいいよ。
「慌てて服を着ながら“一体、何をしたの? I'm calling the police!”と怒鳴ったのですが、同時に自分が恥ずかしくなって、涙が溢れて、それからは声になりませんでした」
彼女が続ける。
「毛むくじゃらの男が“何言ってんだよ。You agreed, didn't you?(君は合意して)俺たちの部屋に来たんじゃないか。忘れたのか? rubber (コンドームのスラング)も使っているじゃないか。それともお金がほしのか? 出るとこ出てもいいよ Bitch”なんて言い出して、逆に恫喝にされてしまいました……」
彼女は直ぐにバンコクに戻るや、アフターピルを買って(タイでは薬局で購入可能)服用するとともに病院を受診したという。その結果、僅かに裂傷があったものの、特に大きな外傷はなかったという。帰国後、彼女は再度、大病院を受診している。ただし、病原体の潜伏期間の関係から感染症の検査は全て終わっておらず、妊娠の有無についても、確認にはまだ時間を要するという。
「実家の父だけには言わないでください」
――そうか……、辛かったな。まずはしっかり通院しよう。レイプの話は追って詳細を聞くが、相手の名前やホテルなど、分かっていることをすべて書き留めてほしい。薬物はもうやっていなよな?
「事件の直後はショックで毎晩、ケタミンに睡眠薬や咳止め混ぜて使っていました。カクテルにした方が、効き目が立体的になっていいんです。でも、ケタミンのせいでレイプされたのに、いまだにケタミンをやり続けるなんておかし過ぎますよね。頑張って乗り切りますので、実家の父だけには言わないでください」
その後、レイプ事件の話を再聴取し、刑事手続を検討していたところ、悲壮な声で恭介が電話をかけてきた。
「いま病院です! 葵がリビングのソファの上で泡を吹いて痙攣していました。救急車を呼んで、胃洗浄をしてもらっています。医師は命に別状はないだろうと言ってます」
すぐさま駆けつけると、彼女が涙目で頭を下げてきた。血尿などの尿路症状や浮遊感を呈するため、しばらく入院が必要になったという。
「ごめんなさい。実は先生に相談した後もクスリを使っていました。依存状態にあったのも事実ですが、現実から逃げたくて……。それと、先週受けた病院のスクリーニング検査でHIV抗体が検出されてしまい……。疑陽性の可能性もあるので、来月もう一度、確定検査を受けてきます。でも、本当にショックで、もう目の前が真っ暗闇になってしまって……。気が付いたらまたクスリに逃げてしまったんです」
彼女の説明によれば、ケタミンの粉末に、乳鉢ですり潰したBZP系の睡眠薬と抗ヒスタミン剤、さらにアヘン系の鎮咳剤を混合して一気に摂取し、OD(オーバードーズ)してしまったそうだ。
「死にたかったわけじゃないけど、哀しくて。恭介に悪くて。でも、恭介に助けられちゃいました……」
彼女はなぜこうなってしまったのだろうか。人生の不条理と言えばそこまでだが、薬物が出発点になっていることは間違いない。
〈ドラッグの世界につながる玄関は間口が広い。だが、出口は狭い。そこを出るとき人は必ず傷ついてしまう〉
今回の事件を通じてこの言葉を改めて思い知らされた。みなさんにはどう映っただろうか。
果たして、彼女はなぜ薬物の闇に身を投じてしまったのか。恋人を襲った最初のトラブルについては、第1回【タイで「麻薬カクテル」に溺れる恋人を救いたい…容姿端麗な「女性薬剤師」を待ち受けていた“予想外の悪夢”】で詳述している。
[3/3ページ]

