5人に1人が経験! 「めまい」に効く就寝方法と食生活テクニックを専門家が指南

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カルシウムとビタミンD

 さて、「耳石は代謝で消える」と述べましたが、耳石が三半規管の組織内にめり込んでしまい、代謝後も一部が残ってしまう場合があります。これは片方の耳にだけ起こる現象で、左右の内耳のバランスが崩れてしまうため、それに慣れるもう一つのセルフケア「耳石器リハビリテーション」が必要です。ヘッドアップ就寝治療法だけで症状改善が不十分であれば、こちらも行いましょう。

(1)室内の柱の正面に1メートルほど離れて座る。柱でなくても直線状の対象物であればOK。

(2)対象物を見ながら、頭を左下に30度ゆっくり傾け、ゆっくり戻す。1往復10秒程度時間をかける。右も同様に。

(3)左右交互に10回を目安に、1日2~3セット。めまいが起こっている時には行わない。

※最初は座って行い、慣れてきたら立って行う。

 セルフケアを実践する際には、耳石を剥がれにくくする食事も重要です。耳石の原料は、骨と同じカルシウム。加齢で骨量が減少することで耳石の“接着度”に影響を及ぼします。「耳の骨粗鬆症が良性発作性頭位めまい症」と指摘する医師もいるくらいなのです。取るべきものは、カルシウムを豊富に含んだ食品です。

 カルシウムの含有量が多い代表的な食品は、牛乳、乳製品、小魚、干しエビ、小松菜、青梗菜(チンゲンサイ)、大豆製品など。吸収を高めるために、ビタミンDが豊富な食品も一緒に取りましょう。サケ、ウナギ、サンマ、カレイ、シイタケ、キクラゲ、卵などがあります。

 加えて、代謝を良くして耳石を若返らせるために、水分を多めに摂取してください。目安は1日1.5~2リットル程度。持病で水分摂取量に制限がある人は、主治医に相談を。

「めまい=メニエール病」ではない

 読者の中には「めまいといえばメニエール病」と思う人もいるかもしれません。確かに、耳の内耳がリンパ液で水ぶくれになるメニエール病は、2番目に多いめまいの病気です。ただ、厳密な診断基準があり、比較的診断に結び付きやすい。一方、良性発作性頭位めまい症は、患者数トップであるにもかかわらず、医師の間でも正しく認知されていません。本来は良性発作性頭位めまい症なのに、「めまい=メニエール病」と安易に診断されているケースもあります。

 私たちは今、耳石を剥がれにくくする薬の研究を行っています。これが確立されれば良性発作性頭位めまい症の根治も夢ではありません。それまでは、セルフケアでめまいの症状軽減・消失に努めていただければと思います。「寿命50年」ではない、人生100年時代において、とりわけ高齢者には知っておいていただきたい「現代の知恵」です。

北原 糺(きたはらただし)
奈良県立医科大学教授。1966年生まれ。大阪大学医学部卒業、同大大学院博士課程修了。大阪労災病院耳鼻咽喉科部長、大阪大学医学部耳鼻咽喉科准教授などを経て、2014年より奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授。16年より同大学附属病院めまい難聴センター長兼任。専門は耳科・神経耳科、めまい平衡医学。著書に『原因不明のめまいはもうこわくない』などがある。

週刊新潮 2025年7月31日号掲載

特別読物「5人に1人が経験、ピークは60代…『めまい』セルフケア術」より

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