5人に1人が経験! 「めまい」に効く就寝方法と食生活テクニックを専門家が指南

ドクター新潮 ライフ

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45度以上を目指す

 もっともこぼれやすい体勢は「寝る時」です。“皿”が地面に対して垂直になり、剥がれている耳石が三半規管へこぼれ落ちてしまいます。そして、寝た状態から起き上がった時、頭が大きく動き、三半規管の中で耳石が暴れるように動いてめまいが起こるのです。耳石の動きが鎮まれば、めまいも治まります。三半規管にこぼれ落ちた耳石は、3~4週間で自然に代謝されて消えますが、それまでの間、耳石が揺れ動くたびにめまいに襲われるようになります。

 そこで私たちが患者さんに指導しているセルフケアが「ヘッドアップ就寝治療法」です。実際に臨床研究を行い論文として発表した、エビデンス(科学的根拠)に基づいた奈良県立医科大オリジナルの方法です。めまいのメカニズムにアプローチしたこのセルフケアは、その日からすぐに実践でき、治療効果で診断を確定する「治療的診断」にもなります。原因不明もしくは治療を受けているが症状が改善しないめまいには、ヘッドアップ就寝治療法をまずやってみることを推奨しています。

 自分のめまいは良性発作性頭位めまい症? そう思ったら、次の三つをチェックしてみてください。「寝て、起き上がった時にめまいが起こる」「頭を大きく動かした時にめまいが起こる」「耳鳴りや難聴は伴わず、5分程度でめまいが治まる」。これらに当てはまる場合、ぜひヘッドアップ就寝治療法を試していただきたいと思います。

 具体的なやり方は「寝る時に、枕、クッション、布団などを積み上げて背中をもたれかけさせ、床と背中の角度を45度以上にする」。要は、頭を高くして耳石器の“皿”が地面に対して垂直にならないようにするのです。

いつまで続ければいい?

「45度以上」というのは、私たちが長年にわたり検証した結果、導き出した角度です。15~20度くらいから始め、徐々に角度を上げていき、最終的に45度以上を目指します。肩や腰がつらい人はクッションを置くなどして調節をしてください。積み上げた布団などが崩れないよう、ひもで縛るのも一つの手です。気を付けていただきたいのは、45度以上という角度。それより低くなると、5~10度の差であっても、効果は得にくくなります。寝返りは打っても構いません。

「いつまで続ければいいですか?」はよく受ける質問ですが、私は二つの選択肢を提示しています。一つは「めまいがなくなるまで。再び起こったら速やかに再開」。ヘッドアップ就寝治療法を知っていることは、すなわち自分でめまいをコントロールするすべを知っているということ。それは安心につながります。もう一つは「ずっと続ける」。多少寝づらくても、しつこいめまいから解放されます。

 私たちはこのセルフケアの効果を検証する研究を行いました。良性発作性頭位めまい症の患者さん88名を、ヘッドアップ就寝治療法のグループと、従来の横になった寝方のグループに分け、眼振の有無を調べたのです。6カ月後、ヘッドアップ就寝治療法のグループは従来の寝方のグループに比べて、眼振が有意に消えていました。さらに患者さんにめまいの程度を0~10で評価してもらったところ、ヘッドアップ就寝治療法グループは3カ月目から有意に回復が見られ、6カ月目ではめまいの程度が半減。この結果は2020年にノルウェーの歴史ある医学誌「Acta Oto-Laryngologica」で紹介され、世界のめまい研究者から注目を集めています。

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