寝るときは長袖、半袖どちらがよい? 専門家に聞く熱中症対策 「熱中症対策グッズでリスク増大の場合も」

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

「水分の取り過ぎ」も要注意

 次に(1)の水分補給についてお話をしたいと思います。発汗によって体から水分が奪われていくのに対応し、こまめな水分補給が欠かせないことは、もはや説明するまでもない暑さ対策の常識中の常識です。

 ただし何事も、過ぎたるはなお及ばざるがごとしで、「水分の取り過ぎ」にも注意が必要です。水を飲み過ぎて血液中のナトリウム濃度が著しく低下し、頭痛や吐き気、ひどいとけいれんが起き、近年では死亡するケースが増えているとも報告されているからです。低ナトリウム血症と呼ばれる症状で、ガブガブと水分を口にすればいいというわけではないのです。

 そこでよく聞かれるのが、「では、一体どれくらい水分を摂取すればいいのか?」という質問です。私はこう答えるようにしています。「全員に当てはまる最適な飲水量はありません」と。

 突き放しているように思われるかもしれませんが、汗をかく量は本当に人それぞれで、摂取すべき水分量も千差万別です。高齢者は汗をかく力が衰えているのと同時に、のどの渇きを感じる能力も若い人に比べて落ちているとされます。また日々鍛錬を行い、同じようなトレーニングメニューをこなしているアスリートでも、発汗量には大きく差が出ます。

 ですから、これくらい飲めばいいという分かりやすい答えはない。汗をかいた後に体重を計ってどれだけ減ったか、さらに体内の水分量が減ると尿の色が濃くなるので、そうした点に注意して、各自で適切な水分摂取に努める以外にありません。

脱水を防ぐテクニック

 その上で、こまめに水分補給をしにくい環境下などで脱水状態になるのを防ぐ一つのテクニックを紹介しておきたいと思います。汗をかく前に、体内にある程度の水分をため込んでおくべく“しょっぱい液体”を飲む「ハイパーハイドレーション」と呼ばれる方法で、海外では試合中に水分補給がままならないアスリートなどが取り入れています。

 これを一般の人に応用すると、朝食でみそ汁やスープを摂取しておくのがお勧めです。保水作用のある塩分(ナトリウム)が血液中に一定程度ないと水分は体内にとどまりにくく、せっかく摂取してもすぐに尿として排出されてしまいます。そのため、朝にみそ汁などでナトリウムを取っておく。みそ汁やスープに限らず、朝ご飯をしっかり食べれば、程度の差こそあれ、メニューのどこかにはナトリウムが含まれているはずです。

 従って、太陽が照りつける夏の一日の暑さ対策は、朝食を抜かないことから始まるといえるかもしれません。

藤井直人(ふじいなおと)
筑波大学体育系准教授。1981年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業。博士(学術)。専門は運動生理学。自らの陸上競技経験も生かし、運動時の呼吸・循環・体温調節などの研究を続け、国際的な賞も受賞している。『ランナーのカラダのなか』『猛暑対策BOOK』の著書がある。

週刊新潮 2025年7月3日号掲載

特別読物「熱中症対策グッズはリスクを増大させることも…4つの基本から考える『正しい酷暑対策』」より

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[5/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。