寝るときは長袖、半袖どちらがよい? 専門家に聞く熱中症対策 「熱中症対策グッズでリスク増大の場合も」
無効発汗とは?
こうして暑熱順化をし、汗をかきやすい体を作っておくことが大切なわけですが、発汗に関しても知っておいてほしいことがあります。「無効発汗」です。
体がため込んだ熱を外に出すためには発汗が欠かせません。とはいえ、ただ汗をかけばいいというわけでもありません。
汗をかくと、なぜ体温が下がるのか。それは汗が皮膚表面で蒸発することにより、体の熱も気化熱として吸収され、体外に放散されるからです。ということは、いくら汗をかいてもそれが蒸発しないと、体温調節の面では意味がないわけで、これを無効発汗と言います。
分かりやすい例で考えてみると、ヘルメットとレーシングスーツに身を包んだF1レーサーは、どれだけ汗をかいたところで、湿度の高い衣服内環境では汗は蒸発できず、つまり気化熱が生まれないので、その汗は無効発汗です。
より一般的な例で言うと、梅雨の時期は大気中に水分が多いため、汗をかいても蒸発しにくい。すると、皮膚からダラダラと汗が地面に滴り落ちる。このダラダラ汗も無効発汗です。梅雨に限らず、日本の夏は温度だけでなく湿度も高いので、無効発汗には注意が必要です。汗をかいているから熱中症になることはなく安心、とは言い切れないわけです。
半袖、長袖どちらで寝る?
この点から考えると、よくある次の「論争」にもおのずと決着がつきます。
〈夜寝る時は、半袖・短パンのような涼しい格好に限る〉
〈いや、汗をよく吸い取ってくれる長袖パジャマを着て寝た方がいい〉
熱放散を考えると、前者が正解です。肌が服に覆われていると、衣服内の湿度が高くなり、せっかく汗をかいても、気化熱が生まれる機会が少なくなります。従って、肌が露出している部分が多い方が、体温が下がりやすいといえるのです。
同じ理由から、暑い季節の日中に長袖を着るのであれば、ゆったりした服の方が、肌にぴったりとした服よりも、衣服内の空気の動きがでやすく、結果として衣服内の湿度が低くなり、気化熱による熱放散が期待できます。
また、汗だくで帰宅するとすぐに汗を拭(ぬぐ)いたくなりますが、しばらくはそのままにしてエアコンや扇風機にあたったほうが、やはり汗の気化熱によって体を早く冷やすことができます。
なお、暑い夏こそ熱い食べ物を取り、汗をかいた方が暑さ対策になるという俗説がありますが、疑問符が付きます。まず、暑熱順化として考えた場合、熱いものを食べたくらいでは、汗をかく時間は限られていてあまり効果は望めないでしょう。また、熱いものを食べれば確かに汗をかきますが、一方で体の中に熱いものが入ってくるわけで、この差し引きを考えた場合、「熱い食べ物」が暑さ対策に有効とは言い難いでしょう。
[4/5ページ]

