「ADHDを引き起こす遺伝子が、人類を繁栄させた」 『スマホ脳』著者が解き明かすADHDの真実

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15%は多過ぎる

 現代では問題視されがちなADHDですが、誰にでもこの傾向はあり、時には強みにもなるということが伝わったでしょうか。そして、人類が生き延びるのに必要な「能力」であったことも。

 気になるのは、近年になってADHDの診断が増えていることです。スウェーデンは人口の5~10%が該当するというデータがありますが、若い男子では、さらに割合が増えています。ただ、私が(2017年に)本を出してから社会での受け止められ方が変わったと思いますし、街で「自分もADHDだ」と率直に明かしてくれる人も出てくるようになりました。

 振り返ればADHDは、その概念が定着するまで百余年の年月がかかっています。18世紀末には、スコットランドの医師が授業に退屈しきっている生徒の症例を書き記していますし、前世紀初めには「道徳的統制の欠如と抑制意志の欠陥」という病名が付けられています。1940年代には「微細脳損傷(MBD)」という名称が使われ、70年代~80年代は「DAMP症候群」と呼ばれた。そして80年代後期になってやっとADHDの名に落ち着きました。

 基本的には同じ症状なのに診断名が変遷してきたのは、時代によって診断の条件が変わってきたからです。だからMBDの時代には「子供の1%」といわれていたのがDAMPでは2~5%、今のアメリカでは州によって15%の子供や若者にADHDの診断が下るようなことも起きている。

 背景には、異常を発見し「病名と薬を与えなければ」という風潮があります。そのため医師が過剰に診断を下している面は否めません。製薬会社の思惑もあるでしょう。

 もちろん、私もADHDで苦しむ人たちを軽視するつもりはありませんし、日常生活や学習に障害が出たら受診し、治療を受けるべきだと思っていますが、それでも15%は多過ぎると個人的には思います。

 重要なのは、むしろ「正常」の範囲を広げ、一風変わった少数の人々を社会が受け入れることではないでしょうか。

ADHDの子どもが含まれるグループが優秀な成績を

 最後にADHDの子供がグループ内でどう機能するかを調べた研究を紹介しましょう。

 3人のうち1人がADHD傾向の高いグループと、1人もADHD傾向がないグループを作り、論理的思考が必要な課題を2種類与えました。結果から言えば、ADHDの子供が含まれる10グループ中9グループが課題を正しく解け、ADHDの子供を含まないグループは解けませんでした。

 これは推測ですが、ADHDの子供が突拍子もないアイデアをいくつも出し、他の子がその中から一つを選んで正答に到ったか、もしくはADHDの子供の考えを基に正答を導き出したということではないでしょうか。いずれにせよ、グループ内にADHDの特徴を持つ人がいると集団が活性化される、ということをこの実験は示唆しています。

 神経科学の世界に「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」という概念があります。脳の多様性も一つの個性として尊重する考え方で、ADHDや自閉症を「病気」とする見方を変えるきっかけになりました。

 身長や髪の色で「異常」とは見なさぬように、性格もそうあるべきではないでしょうか。ADHDも人間の個性のバリエーションと受け入れられる日が来ることを私は願っています。

アンデシュ・ハンセン
精神科医。1974年生まれ。スウェーデン・ストックホルム出身。スットックホルム商科大学でMBAを取得し、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『一流の頭脳』が世界的ベストセラーに。今年4月に『多動脳』が刊行された。

久山葉子訳

週刊新潮 2025年5月15日号掲載

特別読物「ベストセラー『スマホ脳』の著者が解き明かす『ADHD』の真実」より

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