「ADHDを引き起こす遺伝子が、人類を繁栄させた」 『スマホ脳』著者が解き明かすADHDの真実

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クリエイティブな人は「無視」が苦手

 ところがADHDの患者は報酬系の働きが生まれつき鈍くできており、なかなか活性化されません。診察していて何度となく聞くのは「みんなが面白いと思うようなことが自分には退屈で仕方がない」、「だから、周りの反応が欲しくてわざと騒ぎ、授業の邪魔をしたり、友達の髪を引っ張ったりした」という話です。報酬系が反応しづらく延々と刺激を探し続けるので、注意散漫だと思われる。衝動を他にそらすことができず、多動にもなるわけです。

 一方で、こうした集中力の欠如がクリエイティビティーと関係しているとも考えられています。

 ハーバード大学で、ある研究者が100人近い学生を調査したことがあります。作曲、絵画、詩や文学といった分野で評価され、「極めて創造性のある業績を上げた学生」に選ばれた学生も含まれていました。彼らの創造性を分析する際、注目されたのは「気が散る要素を無視する能力」でした。

 抜きん出てクリエイティブな人は雑音があっても創作に夢中で深く集中しているはず、と予想されていましたが、結果は真逆。クリエイティブな人は「無視」が苦手で、その差は無視できる人の7倍にも及びました。

気が散るような“雑音”も排除しない

 これは研究用語で「リーキー・アテンション(漏れがちな注目)」と呼ばれており、このタイプの人は重要でないものを自分の頭から排除するのが難しい。しかし、リーキー・アテンションはどうやら思考の流れを増やし、自由な発想を促しているようなのです。

 情報を大量に取り入れ、あらゆる刺激に可能性を見いだす。うるさくて仕方がない換気扇の音でさえ興味深く聞いてしまう。そうした脳ほど物事に新しい光を当て、他の人が思い付かないアイデアが湧いてくる。「気が散る」のも悪いことばかりではないわけです。

 ハーバード大学の精神医学の研究者ジョン・J・レイティは創造性を「正しい方向に向かった衝動」と呼んでいますが、先にも述べたように、ADHDの人は、常に刺激を探し回っています。気が散るような“雑音”であっても脳は排除しない。その中には珍しいアイデアが含まれていることもある。ADHDの人は同時に衝動を抑える力が足りないので、そういう珍しいアイデアも抑えません。結果、クリエイティブにもなるというわけです。

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