「ADHDを引き起こす遺伝子が、人類を繁栄させた」 『スマホ脳』著者が解き明かすADHDの真実
人類を繁栄させた遺伝子
少し専門的になりますが、ADHDに大きく関係しているのが「DRD4-7R」というドーパミン受容体遺伝子です。この遺伝子を持って生まれた人は活性化しにくい報酬系を持っており、ADHDになる可能性が高いことが知られています。
一方、この遺伝子は人類の繁栄とも深い関わり合いがある。それを示すものとして、世界30カ所、2000人以上を対象にした興味深い調査があります。対象は西欧からアジア、北米先住民、中南米やアフリカの狩猟採集民、オーストラリアの先住民にまで及んでいます。
約20万年前、アフリカで生まれた人類(ホモ・サピエンス)は、現在のサハラ砂漠を越えると約3万年という短い期間で世界各地に達したといわれています。アフリカを出て、アラビア半島や中東へ。そこからヨーロッパというルートもあれば、アジアやロシア経由で北米に。さらに南に向かって中南米に渡ったグループもあるし、アジアからオーストラリアやニュージーランドにまでたどり着いたグループもいたわけです。
人類をアフリカから旅立たせたのは、ADHDを引き起こす遺伝子?
この、何百世代もかけて長距離を移動した人々と、同じ場所にとどまった人々に違いはあるのか。それを調べたところ、遺伝子に違いがあることが分かった。長い距離を移動した人々ほどDRD4-7Rを持つ割合が高かったのです。
DRD4遺伝子に突然変異が起きてDRD4-7Rが本格的に広まり始めたのは、どうやら4万~5万年前。その遺伝子と人類がアフリカを出たことと、どんな関係があるのでしょうか。
DRD4-7Rは、人のリスクテイキングな傾向や新しい体験を求めたがる人たちの脳を研究する際、研究対象となる遺伝子でもあります。人間の「新奇探索傾向(ノベルティ・シーキング)」という性格に関与しているといわれています。現代においてADHDを引き起こす一因とされる遺伝子が、人類をアフリカから世界へと旅立たせ、新しい経験を求めるという人間としての決定的な特質を左右しているとしたらどうでしょう。私は人類の魂のメカニズムに触れているような気がしてわくわくさせられます。
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