「10年」かけて「全104曲」を完走! 日本一多忙な指揮者「飯森範親」が前代未聞のプロジェクト「ハイドンマラソン」の全内幕を明かす

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「ハイドンマラソン」って何?

 この3月21日、クラシック音楽界で、ある公演が話題となった。大阪、ザ・シンフォニーホールにおける日本センチュリー交響楽団の〈ハイドンマラソン〉第38回公演である。〈ハイドンマラソン〉とは、いったい、なにか?

 “交響曲の父”と呼ばれた作曲家、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは、生涯に「104曲」もの交響曲を書いた。そのすべてを、10年をかけて、ステージで「実演」し、同時に「録音」してCD全集で残すという、前代未聞のプロジェクトである。その「実演」が、ついに“完走”したのだ。

「録音で全集を完成させた指揮者は、いままでにもいますが、それでも今回で5例目だと思います。しかし、同時に“全曲実演”も実現させたのは、もしかすると、わたしが世界初かもしれません」

 と語るのは、この3月まで同団の首席指揮者だった、飯森範親(61)である。

 その第1回は、2015年6月だった。以後、年4回、毎回2~3曲ずつをとりあげ、38回をかけて、全104曲を演奏してきた。そのたびにライヴ録音がおこなわれ、Extonレーベル(オクタヴィア・レコード)から、CD化されている。最終的に全34枚になる予定で、現在は、Vol.28までがリリースされている。こちらも完結まで、もう一息だ。

 そもそも、なぜ、このようなプロジェクトがはじまったのだろうか。

「わたしが日本センチュリー交響楽団の首席指揮者に就任したのが、2014年でした。とても美しい音を奏でる実力オーケストラでしたが、大阪府からの支援を打ち切られるなど、経営面で苦境に立たされていました。それだけに、思い切った企画で、存在を強くアピールしたかったのです」

 実はそのころ、音楽監督をつとめていた山形交響楽団(現在は、桂冠指揮者)での、モーツァルトの交響曲全曲実演+録音が完結する時期だった。

「そこで、今度はハイドン全曲への挑戦を提案しました。編成的にチェンバロ以外は、ほぼ正楽団員だけで演奏できるので、エキストラを招く経費もかかりません」

 しかし、モーツァルトだったら、番号付きが41曲、番号なしを含めても50数曲だが、ハイドンとなると「104曲」。ほぼ倍である。CDも、モーツァルトは「13枚」ですんだが、ハイドンは「34枚」にもおよぶのだ。オーケストラは、どんな反応だったのだろうか。

「反対の声は、ありませんでした。みんな、やる気満々でしたよ。ただ、周囲からは、疑問の声もあったようです」

 オーケストラは、定期会員だけでなく、多くの支援団体やスポンサーに支えられている。応援団の評論家やジャーナリストもいる。それら周囲から「全曲をやる意味があるのか?」「104曲のなかには、駄作もあるのでは?」などの声が聞こえたという。

「そうした声もありましたが、貫かせていただきました。そもそも104曲すべてが、いまでもキチンと残って楽譜が出版されているわけです。なかには、複数の出版社から出ている曲もある。21世紀のいまに伝える価値があるからこそ、そうやって出版がつづいているのでしょう。だったら、挑戦する意義も十分にあるはずなんです」

 こうして、2015年6月5日、大阪、いずみホール(現・住友生命いずみホール)にて〈ハイドンマラソン〉が始動した。

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