「10年」かけて「全104曲」を完走! 日本一多忙な指揮者「飯森範親」が前代未聞のプロジェクト「ハイドンマラソン」の全内幕を明かす

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日本一忙しい指揮者

 ところで、そんな一大プロジェクトを完走した飯森マエストロ、当たり前だが、仕事は〈ハイドンマラソン〉だけではない。現在、以下のような肩書きを背負っている。

パシフィックフィルハーモニア東京/音楽監督
群馬交響楽団/常任指揮者
いずみシンフォニエッタ大阪/常任指揮者
東京佼成ウインドオーケストラ/首席客演指揮者
中部フィルハーモニー交響楽団/首席客演指揮者
山形交響楽団/桂冠指揮者……米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』(滝田洋二郎監督、2008年)に、同団とともに《第九》指揮者として“出演”。
(日本センチュリー交響楽団/首席指揮者は、3月末で退任)

 そのほか、過去には東京交響楽団/専属指揮者・正指揮者、モスクワ放送交響楽団/特別客演指揮者、広島交響楽団/正指揮者、アルトゥール・ルービンシュタイン・フィルハーモニー管弦楽団(ポーランド)/首席客演指揮者、ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団(ドイツ)/音楽総監督などもつとめていた。今年度からは、武蔵野音楽大学客員教授として、後進の指導にもあたっている。

 ご本人は謙遜するが、まさに“日本一忙しい指揮者”ではないだろうか。これだけの“シェフ”をつとめていて、混乱しないのだろうか?

「たしかに多すぎるかもしれませんね(笑)。昨年の後半はちょっときつかったですが、なんとかやっていますよ」

 しかも、飯森マエストロの場合、ジャンルが広い。オーケストラのみならず、吹奏楽までこなすのだ。つい先日も、東京佼成ウインドオーケストラの第168回定期で、フェルランやナヴァッロといった、知るひとぞ知る、スペインの現代吹奏楽曲のみのコンサートを指揮したばかりだ。筆者も、長年、吹奏楽を聴いてきたが、ほとんどが初めて聴く曲であった。

「正確な記録はないのですが、多くが日本初演、もしくはそれに近い曲ばかりでした」

 そのほか、近年では、フェルディナント・リースが残した、8曲の交響曲の日本初演をスタートさせ……ちょっと待って、リースって、どこの誰ですか?

「フェルディナント・リース(1784~1838)はベートーヴェンの回想録を書いた、直系の弟子です。ベートーヴェンの影響をもっとも強く受けたピアニスト兼作曲家でした。長く忘れられていたのですが、近年、研究が進み、演奏や録音も多くなってきました。また、リースの父親は、優秀なヴァイオリニストで、幼少期のベートーヴェンに教えていたばかりか、金銭的な支援もしていました。つまり、リース家あってこそのベートーヴェンだったわけです。そう思って聴いていただくと、また新たな感慨が湧くはずです」

 そんなリースの“秘曲”を、パシフィックフィルハーモニア東京の定期演奏会で、断続的に日本初演しているのだ。次回は、5月18日で、交響曲第3番が日本初演される。これまた、モーツァルトやハイドン同様、CD全集企画が進んでおり、第1番・第2番が5月21日に発売されるという。

 実は、飯森マエストロは“初演魔”なのである! 日本で“初演魔”といえば、岩城宏之(1932~2006)が有名だった。生涯に2000曲以上を初演し、そのうちの100曲強が、日本人作曲家の新作初演だったと伝えられている。

「わたしは、邦人新作初演を、すでに200曲以上、手がけています。先日も、作曲家の池辺晋一郎先生から、“岩城さんを超えているよ”と、いわれました」

 近年では特に、西村朗(1953~2023)の新作初演を多く手がけ、その数は17作品にまで達していた。

「新作初演は、指揮者としての義務だと思っています。人間、いつか亡くなりますが、そのあとに残る作品を新たに発掘し、伝えていくことも重要な仕事です」

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