世界のZ世代を東京に呼び込み日本のエンジンにする――原田曜平(マーケティングアナリスト)【佐藤優の頂上対決】

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Z世代向け都市・東京

原田 ただ、そうした分断が起きていても、見ている情報は同じなので、中高一貫校で育った子も地方でマイルドヤンキーになった子も、さまざまな面で似てきています。例えば、マイルドヤンキーがおしゃれになっている。なぜならSNSによって、地元の先輩でなく海外のラッパーのファッションの影響を受けるようになっているからです。

佐藤 確かに若い人はみんな小奇麗になっていますね。

原田 ええ。そうした中で、上層というかエリート層の子たちが、下に引っ張られているのをよく感じるんです。東大生までチルってしまって、まったりしている。

佐藤 東大出身の地方公務員は増えています。俗に公務員は「休まず、遅れず、働かず」といわれますが、国家公務員では無理です。でも地方公務員ならできます。

原田 まさにチルですね。じゃあ東大なんて入らず、地域の国立大に行けばいいと思いますけどね。

佐藤 偏差値が高いから行く、という人も一定数いますからね。

原田 もっともチルは日本だけでなく、世界の大都市の若者に共通する傾向です。各地でインタビューすると、もう競争やチャレンジに疲れてしまっているんですね。かつてみんなが「起業して社長になる」とか「億万長者になる」など威勢のいいことを言っていた中国でも、競争を忌避する「横たわり族」が出てきました。またアメリカのレベルの高い大学の学生も、「もうGAFAに全部やられてしまっている」と大きな成功は望まず、「体にいいマヨネーズを作ってニューヨークだけで売る」みたいな小さな起業を目指している。

佐藤 ガツガツせず、社会にいいことをやって暮らしたい。

原田 その通りです。そうした傾向の中では、実は相対的に東京が非常に過ごしやすい都市になっているというのが、最近の発見なんです。

佐藤 原田さんの書いた『寡欲都市TOKYO』の東京論ですね。

原田 スウェーデンに調査に行った時、彼らに日本の学生のインスタグラムを見せたんです。そうしたらものすごく驚いている。おしゃれなカフェに通い、ディズニーランドに行ったりリムジン女子会をやったり、他にも食べ物や化粧品の写真が満載で、それに驚愕している。確かに彼らは、バカンスには自然豊かな場所に出かけるくらいで、基本的に日々家の中で過ごしているわけです。

佐藤 北欧の物価は非常に高いから、学生はいろいろなところに出かけられないし、モノも買えませんよ。

原田 でも日本はデフレイノベーションというのか、デフレ下でモノの値段が下がり、しかし質は良くなった。コンビニのスイーツは、中途半端なケーキ屋さんよりおいしい。

佐藤 家賃も安いですね。東京中心部でも再開発が遅れた場所なら、築数十年、トイレ共用で、5万円以下の物件があります。

原田 それは外国人からもよく言われます。「マンハッタンみたいな六本木でも、古い物件なら数万円で住める。ニューヨークではありえない」と。

佐藤 アメリカだと学費も高い。

原田 都市部の若者は大学卒業までに1500万円くらいの教育ローンを背負いますから、高給の会社に入るのに必死です。そうした彼らから見ると、家賃も物価も安く、安全に暮らせる東京は魅力的です。他の先進国の大都市に比べて移民が少なく、人口もさほど増えていませんから、競争が激しくない。一流を目指さなければ、東京は居心地のいい都市になっているんです。

佐藤 チル志向なら、東京で十分ということですね。

原田 まだその魅力は十分に伝わっていません。だから東京はもっと人を呼び込める可能性があります。一流でなくとも都市を活性化することはできます。

佐藤 ただ物価も不動産価格も上がっていますし、今後、激しい競争社会へと舵を切るかもしれません。

原田 過渡期的な現象だとは思っています。でもいま日本の人口減という大問題に対し、少子化対策にも地方創生にも妙案はありません。だからまず東京を生かしたほうがいい。東京に世界から人を呼び込み、エンジンにするべきだと思うのです。

佐藤 戦略的東京一極集中ですね。

原田 実はニューヨークもロンドンもシドニーも、移民や地方からの人口流入で競争が激化し、物価も上昇して、若者の地方移住が起きています。東京が同じような状況になって初めて、日本で「本当の地方創生」が起こると思います。そのためにも、まず世界からZ世代の移民を、世界で最もチルな都市・東京に呼び込む。これまで地方ばかりを向いていた目を東京に戻し、東京から日本を駆動させるのが、現実的で一番いい方策だと思いますね。

原田曜平 (はらだようへい ) マーケティングアナリスト
1977年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒。2001年博報堂入社。生活総合研究所、研究開発局、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを経て、17年にマーケティングアナリストとして独立。22年より芝浦工大教授。主著に『ヤンキー経済』『パリピ経済』『Z世代』『寡欲都市TOKYO』など。

週刊新潮 2022年6月30日号掲載

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