世界のZ世代を東京に呼び込み日本のエンジンにする――原田曜平(マーケティングアナリスト)【佐藤優の頂上対決】

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変わる若者の価値観

佐藤 最近は1990年代半ば以降に生まれた「Z世代」の動向を発信されています。原田さんにはその名の著作もありますが、この言葉もビジネスの世界で当たり前に使われるようになりましたね。

原田 Z世代を広めたのは私ですが、自分で作ったのではなく、アメリカ発の言葉です。彼(か)の国ではだいたい1960年代初頭から80年頃までに生まれた世代を「ジェネレーションX」、80年代初めから90年代半ば生まれを「ジェネレーションY」とか「ミレニアル世代」と呼んでいました。それに続く世代ということで「ジェネレーションZ」という言葉が生まれた。

佐藤 日本だとちょうど「ゆとり世代」の後くらいの世代ですね。

原田 ええ、日本で言えば「脱ゆとり世代」、あるいは「ポストゆとり世代」です。これは私が命名したのですが、あまり普及していない(笑)。

佐藤 そんなことはないと思いますが、Z世代を一番特徴づけるものはやはりスマートフォンですか。

原田 はい。1台目からスマホを持っている世代です。ゆとり世代は携帯電話第1世代ですが、より正確には「ガラケー第1世代」です。

佐藤 その違いが両者を大きく隔てている。

原田 ガラケー時代の最大の特徴は、つながりをメインとするSNSです。メールやmixiでつながり、一度つながった人との関係は成長しても継続していきます。だから同質性の高いグループが生まれ、同調圧力も強い。マイルドヤンキーはその影響を大きく受けています。

佐藤 そこにはリアルなつながりがある。

原田 ところがスマホは違います。SNSでも、ツイッターやインスタグラム、TikTokなど発信型になっています。何か面白いことを呟けば、知らない誰かから「いいね」が来て、ファンになってくれる。みんな、ちょっとしたプチスターです。そして世界に発信できるし、世界の情報も入ってくる。またそれによって小銭が稼げるようにもなりました。

佐藤 情報環境自体が、もう全然違うわけですね。

原田 いまはアメリカでも韓国でもインドネシアでも、若者は同じ情報を見ています。10年前なら、アメリカではどんなドラマがはやっているかを聞いてそれを追っていたのが、最近は調べずとも、みなネットフリックスで同じドラマを見ている。それならアメリカの世代論が日本の世代論にもなりうると思い、Z世代という言葉を広めてきたんですよ。

佐藤 当然、同じ情報を見ていれば、一元化されていきますよね。

原田 少なくとも世界の主要都市は環境がとても似ています。経済はあまり成長しないし、ライフスタイルもほとんど同じです。また、メンタリティーも似通っている。

佐藤 それが「チル」と「ミー」ですね。

原田 はい。チルはもともとアメリカのラッパーたちのスラング「Chill out(まったりする)」からきています。マイペースで心地よく過ごすことが彼らの基本です。日本のZ世代は人数が少ないため、進学もバイトも就活も転職も、リーマンショックがあったゆとり世代に比べ、非常に恵まれた環境にあった。コロナ禍でも、40年以上続く少子化の影響は強くて、観光業など一部の業界を除き、就職状況は良いままでした。

佐藤 確かに激しい競争がない世代ですね。

原田 またパソコン並みの機能があるスマホを使いこなし、発信すれば「いいね」をもらえる環境がありますから、発信欲求や自己承認欲求が強い。チルではあるけれども、過剰ともいえる自意識があり、それを「ミー意識」と呼んでいます。

佐藤 私が面白いと思ったのは、Z世代は親子関係が良好だという指摘です。私は母校の同志社大学で6年ほど教えていますが、女子学生がお見合い志向なんです。それも両親が決めた人がいいと言う。さらに聞けば、付き合っている人を両親のもとに連れていってダメ出しされた時に、親子関係が崩れることを恐れている。

原田 異性を親に会わせてゴーサインが出たら付き合うという話は、私もたくさん聞いています。それを嫌だとはまったく思っていない。

佐藤 私はやはり母校の浦和高校でも教えたことがあるんですが、母親と手をつないで歩いている男子学生を見て驚きました。

原田 母の日の市場規模はこの10年間ずっと伸びています。思春期の男子が母親に花を贈るようになったんですよ。TikTokでは両親の若い頃の写真を投稿するのがはやっていますし、自動車会社が「親子デートしよう」というコピーを広告に使うまでになっている。キャッシュレス決済の広告では、女子高生が彼氏とデートしているところを父親が見て、千円をその場でケータイで送金してあげる。昔なら見られること自体嫌がるわけですが、「あ、お父さん素敵」となる。

佐藤 父親が後をつけてきたのかもしれないのに。

原田 でも素敵、という感覚で、それが当たり前になっている。

佐藤 どのくらい前からこうした傾向が生まれてきたのでしょうか。

原田 ゆとり世代からでしょうね。私は2016年に『ママっ子男子とバブルママ』という本も書いていますが、当時もう「母親と週末デート」という話をよく聞きました。

佐藤 親の側にも抵抗がない。

原田 ゆとり世代の親は、バブル期に新人類と呼ばれた人たちです。団塊世代に比べてマイルドで、その後、バブルが崩壊して長い低迷期に入りますから、親が子供に何か押し付ける自信を失っているんじゃないかと思いますね。「勉強していい大学に行き、いい会社に入れば一生安泰」ではなくなりましたから。

佐藤 私の見た範囲でですが、超難関大を目指せと言うのは、その種の大学卒でない母親が多いように思います。早慶や旧帝大を卒業した母親だと、あまり押し付けない。特に女子にはそうです。それは、受験勉強の労力に比べてリターンが見合っていないという自分の体験に基づいているからだと思います。

原田 Z世代の子供は毎日のように習い事をしてきました。だから友人関係が薄い。「親友は誰」と聞くと、「あ、強いて言えば」みたいな感じで、出てこない。SNSで世界中とつながるようになった反面、一人一人の関係は希薄になった。だから家族関係が濃くなった気がします。

佐藤 中学受験をすると、小学4年から塾に通い始めますね。そうすると早い時期に友達との分断が生じ、狭い世界で生きることになる。

原田 『ヤンキー経済』を書いた頃は、一流高校の生徒も地元の友達とのつながりが結構あったのですが、いまはすごく減っています。中学生になって携帯を持つ前に、偏差値で振り分けられてしまうからです。

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