吉野家炎上に学ぶ「令和型危機管理術」 研修は本当に無意味なのか?

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研修を受けているはずなのに炎上

 しかし、そのわずか数カ月後にA氏は炎上する。あるオープンなトークイベントで、自社サービスを「どんなバカでも使いこなせる」とアピール、さらに参加者の容姿を、「気持ち悪い」などと揶揄したことで後日、会社にクレームが多く寄せられ、謝罪に追われる事態になった。

 今、このように「フリートーク炎上」をする経営陣が増えている。例えば、KADOKAWAの代表取締役社長を務める夏野剛氏である。21年7月、彼がネットテレビの報道番組「ABEMA Prime」に出演し、緊急事態宣言下で子どもの運動会や発表会が無観客になっていることから、不公平感を出さないために五輪が無観客なのもしょうがないという意見に対して、このように発言して、炎上した。

「そんなクソなね、ピアノの発表会なんかどうでもいいでしょう、五輪に比べれば。だけどそれを一緒にするアホな国民感情に、今年選挙があるから乗らざるを得ないんですよ」

 NTTドコモの執行役員を経てドワンゴやKADOKAWAの代表取締役となった夏野氏は当然、研修などで「芝居型」はマスターしているはずである。しかし、そんな「台本ありきの話法」は、フリートークの場で生かされることはないのだ。

雪印食中毒事件が大きなターニングポイントに

 さて、ここで、ひとつの疑問が浮かぶのではないか。先ほどから、日本の企業危機管理は「芝居型」が主流だったと言っているが、なぜそうなってしまったのかということだ。

 実はこれは00年6月の雪印食中毒事件が関係している。当時、多数の食中毒被害者を出した雪印乳業の西日本支社には、マスコミが押しかけて連日のように記者会見が開かれていた。そんな中で、石川哲郎社長(当時)が会見終了後にマスコミから詰め寄られて「私は寝てないんだよ!」と怒り気味に発言し、逃げるように会場を後にしたことがあった。これをきっかけに雪印への激しいバッシングが始まり商品はスーパーなどから撤去され、石川社長は引責辞任。「雪印ブランド」の信頼は地に堕ちた。

 この「歴史的会見」を受けて、日本の企業危機管理では「雪印・石川社長と同じ過ちを繰り返すな」が合言葉になる。つまり、マスコミにどんなに追いかけ回され、罵倒されても「キレない」「逃げない」「台本以外のことは言わない」という鉄壁の防御をすることが「正解」とされたのである。

 こうして「芝居型」が主流になっていくのだ。これは余談だが、この雪印ショックのせいで、2000年代前半の謝罪会見のトレーニングは、経営者の忍耐力を磨く場になってしまった。記者役が「ナメてるのか!」「なんとか言えよ!」などと暴言を浴びせ続けるのだ。実際の取材現場ではまずお目にかからない、ヤクザのような記者役を最初に目にした時は衝撃を受けたものだ。

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