吉野家炎上に学ぶ「令和型危機管理術」 研修は本当に無意味なのか?

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台本なしの言葉で発生する炎上

 一方、後者の「フリートーク型」は、今回の伊東氏のような社外での講演や、トークセッション、あるいはSNS炎上などのシチュエーションをイメージしていただきたい。会見のように堅苦しい場ではないので、経営陣は「自分の言葉」で臨機応変にフリートークを展開しなくてはいけない。例えば、社長が大学で講演をする際に台本を読み上げ、参加者からの質問に「その件は後ほど広報からお答えします」などと言っていたら、「こんなつまらない人が経営者なの?」と会社のイメージまで低下してしまうだろう。

 つまり、「芝居型」は「台本ありき」のリスクコミュニケーションであり、それに対して「フリートーク型」は「経営者自身の言葉」によって発生する炎上を防ぐ術なのだ。

「芝居型」だけでは対応できない

 これまで日本で、企業危機管理といえば「芝居型」が主流だった。企業不祥事が起きて、経営者が謝罪会見をすると、よくマスコミや評論家から、「原稿棒読みで心が入っていない」などという批判の声が上がるが、それは当たり前なのだ。この手の会見の前には、しっかりと台本と想定問答を作りあげ、本番前には「余計なことは言わないでください」と経営者に念を押すのが、企業危機管理のセオリーだったからである。もちろん、これが間違っているわけではない。筆者も多くの企業不祥事のサポートをしてきたが、このような「芝居型」の対応で、ダメージを広げることなく事態を収束させてきた。

 ただ、時代は変わっていく。芝居型だけでは新しい時代のリスクには対応できない。筆者が実際に目にしたあるIT企業の役員A氏を例に説明しよう。

 この会社であるトラブルが発覚したので、事業責任者としてA氏が会見をすることとなり、その事前トレーニングをした。A氏は頭の回転が速く記憶力も優れていたので、すぐに「芝居型」のポイントをマスターした。ただ、トレーニング時にひとつ気になったことがあった。スイッチがオフになった時の言葉遣いが荒く、雑談になると、「記者なんて勉強不足なんだから説明したってわからないでしょ」「うちのユーザーも頭の悪いヤツが多いから」などと、上から目線の暴言が次々と飛び出すのだ。

 そこで、危機管理担当者に、今回のような会見は「守り」なので問題ないが、フリートークの場では気を付けた方がいいと忠告をした。かくして迎えた本番でA氏は完璧な対応をした。会社側が用意したコメントをそらで読み上げ、リスキーな質問をうまくはぐらかし、謝罪時のおじぎも誠実さと謝意が伝わるようなもので、叩くメディアは皆無だった。

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