吉野家炎上に学ぶ「令和型危機管理術」 研修は本当に無意味なのか?

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ある外資系企業社長の例

 ある外資系企業で社長を務めるB氏という人物がいた。この人は幼い頃から海外生活が長かったということもあって、日本社会や、日本の企業文化にややネガティブな印象を持っていた。そのため、雑談で気分が乗ってくると、「日本の官僚は偏差値が高いだけで頭が悪い」「日本の社長は、社内の出世争いに勝っただけでロクに経営の勉強をしていない」など“日本批判”がポンポン飛び出してしまう。実際、メディアがそのような発言を報じて、それを見た監督官庁の役人や、競合他社の経営者が激怒、取引先などにこの企業の悪口を言いまくるという「プチ炎上」も起きていた。

雑談トレーニング

 そこで、危機管理担当者から相談を受けて始めたのが「雑談トレーニング」である。定期的に筆者と会って、自社のビジネス、業界の展望はもちろん、時事問題や個人的な趣味などまで、幅広いテーマで会話をするということを繰り返して、問題発言がないかチェックしていくのだ。最初のうちは言葉を選んでいるが、慣れてくると問題発言がポロッと出てくるので、「今の発言は日本人としてイラッときます」とか「ライバル企業から揚げ足を取られますよ」などと指摘をして「調整」をする。こんなことを2年ほど続けたところ、B氏の「プチ炎上」はなくなったのである。

 雪印事件がトラウマになっている、日本の企業危機管理では、経営者のために細かな台本や想定問答を作ることが「正解」とされている。もちろん、事前準備は大切だが、あまりに過保護なサポートは経営者から「自分の言葉で語る力」を奪ってしまう。そういうことを日本企業は20年近く続けてきた。だから、経営者はフリートークに弱く、「生娘をシャブ漬け」なんて失言を繰り返す。

 こういう騒動が起きる度、企業は再発防止として研修や教育を徹底するというが、まずは「雪印の呪い」から脱却することの方が重要ではないか。

窪田順生(くぼたまさき)
報道対策アドバイザー/ノンフィクション・ライター。1974年生まれ。雑誌や新聞の記者を経てフリーランスのノンフィクション・ライターに。現在はライター業とともに、広報コンサルティングやメディアトレーニングも行っている。広報戦略をテーマにした『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』等の著書がある。

週刊新潮 2022年5月26日号掲載

特別読物「吉野家『生娘シャブ漬け』大炎上に学ぶ『令和型危機管理術』」より

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