吉野家炎上に学ぶ「令和型危機管理術」 研修は本当に無意味なのか?

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船場吉兆も「芝居型」重視に拍車

 そんな雪印事件のトラウマを引きずる日本の企業危機管理はその後もさらに「芝居型」偏重に拍車がかかっていく。大きく影響したのは07年に産地偽装で廃業に至った船場吉兆だ。この時、会見に登壇した女将(おかみ)の湯木佐知子氏が、隣で言葉につまってしまう取締役の長男にささやくように「それはない……」「頭が真っ白になった……」などと回答を“指南”する様子が、「ささやき女将」として大きな話題となった。そうなると当然、雪印の時と同じく、企業危機管理の世界では「船場吉兆と同じ過ちを繰り返すな」が合言葉になっていく。

 徹底した防御の姿勢に加えて、経営陣が会見の席で、質疑応答で頭が真っ白になって恥をかかないよう、事前に完璧な模範解答(台本)を作って、経営陣(役者)はそれを流暢に言えるような練習をしていくべきだという考えが一層広まっていく。

「芝居型」に固執すると大やけど

 このような変遷で、日本の企業危機管理の主流になった「芝居型」だが、ここまで見てきたように、これは雪印事件やささやき女将が生み出した「平成の企業危機管理」である。当然、令和の今には通用しない部分も多々ある。この方法論に固執すると大やけどをする。

 北海道・知床半島沖で乗客乗員計26人が乗った観光船「KAZU I(ワン)」が沈没する事故を起こした運営会社「知床遊覧船」がいい例だ。事故が起きてすぐに対応をすべきところ、「台本」を練り上げることを優先して会見まで4日もかかったことで批判が殺到した。とりあえず謝罪のスタンスだけでも世間に印象付けようと、土下座に踏み切ったが、その後の「原稿棒読み」や、責任のはぐらかしという「徹底防御の姿勢」によって「芝居」だということがバレた。今日び一般人も「謝罪会見」に対する目が肥えているので、「陳腐な三文芝居」は逆効果なのだ。

 だからこそ、筆者はこれまでの「台本ありき」の「芝居型」だけではなく、経営陣が「自分の言葉」を活用する「フリートーク型」を普及させていくことが必要だと考えている。もちろん、そのためには普段から経営陣の表現力や語彙(ごい)力、さらに人間力も磨いていかなければいけない。

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