肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方3 「生存率」をどのように読み解くのか?

ドクター新潮 医療 がん

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多職種が連携した「集学的」なアプローチ

進藤:それは非常に大切な視点で、主治医として外科医の視点だけ、内科医の視点だけといった偏った考え方ではなく、関連各科の専門家が集まり、様々な視点から治療方針を議論するmultidisciplinary team (MDT) approachの重要性が最近よく言われるようになっています。MDT approachには適切な日本語訳がありませんが、わかりやすく言い換えれば多職種のエキスパートらが連携をしてチームをつくり「集学的」なアプローチで一人ひとりの患者さんにベストな治療を追求する取り組みのことで、多くの施設で取り入れられるようになってきたと思います。

 虎の門病院も私の赴任した2014年以前では、4個以上の大腸がん肝転移を有する症例の切除はほとんど行われていませんでしたし、切除適応を検討するのも肝臓外科医ではなく大腸外科医で、今の我々の視点で見ると治る可能性があったと思われる患者さんも見逃されてきたという歴史があります。私が東京大学から虎の門に移ってまず始めたことは診療科同士の連携体制の強化で、肝転移を有する大腸がん症例はすべて自分に紹介してもらい、一緒に治療方針を検討することにしました。

 結果、2014年以前と2014年以降の当院の症例を比較してみると、大腸がん肝転移切除症例の一症例あたりの病巣の個数の平均は1.5個から5.2個に増加し、かなりの進行症例を治療するようになったことが分かります。一方、初回切除からの5年生存率でみると、66.5% →64.9%と全く損なわれていません。これはまさに診療科の連携体制の強化がより多くの患者さんの生存延長のチャンスを広げた結果であるといえると思います。

大場:継続的に素晴らしい取り組みをされてきたのですね。とくに医療現場では、患者利益にならない古い慣習を打ち破り、システムを変えることは非常に難しい。進藤先生が赴任されてから、腫瘍の条件がむしろ悪くなっても、治療成績が良好に維持されているわけですから、同じ施設の中でも教育体制ひとつで生存率が変わってくるというお話だと理解しました。まとめると、大腸がんの肝転移はステージⅣでも治せるポテンシャルのある特有の疾患群であり、治癒を目指すためには、転移巣を切除することが軸となります。ただし、切除できる・できないは医師間、施設間で考え方の差異が大きくあり、職種をこえたチーム医療の成熟度が患者予後に直接反映することがよくわかりました。

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