肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方3 「生存率」をどのように読み解くのか?

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「手術レベルは素晴らしい」で済ませてよいか?

 2021年に公表された「がん診療連携拠点病院における院内がん登録生存率集計」について、どのように解釈すべきなのか。この他、日本人に多い大腸がんの場合、転移したステージⅣであっても、つきまとう「難治」のイメージとは裏腹に、治るチャンスはかなり残されている……などいったテーマについて、がん治療のエキスパートである東京目白クリニック院長の大場大氏、虎の門病院消化器外科医長の進藤潤一氏が語る。

大場:がんの生存率の数字については、冷静な解釈が必要だと思います。全体の数字は抽象的なもので、あまり意味がありません。2021年、国立がん研究センターから、がん種ごとの10年生存率(院内がん登録 2009 年 10 年生存率集計 報告書) が初めて公表されました。乳がんのような例外もありますが、10年間という数字は真に治癒したと考えてよい期間でしょう。

 その中で、例えば胃がんの10年生存率は66.8%となっており、海外と比べて優秀な成績だ、日本の胃外科医の手術レベルは素晴らしいという報道のされ方があります。ところが、この数字を分析してみると、内視鏡的治療のみで解決できるステージⅠの早期胃がんも含めたものであり、リンパ節に幾つか転移があったり、がん自体が深く根を張っていたりするような、いわば患者にとって差し迫ったステージⅢの進行胃がんの場合、生存率は36%ほどに過ぎません。食道がんになると全体での生存率は34.2%と公表されていますが、リスクの高いステージⅢの進行食道がんは19%。ステージⅡでも40%にすら達していません。進行してしまうと、いわゆる難治がんということになるのです。

 それらの場合、本気で治したいと考えるのであれば、高い手術クオリティが求められるのは当然で、抗がん剤や放射線治療なども駆使しながら、少しでも再発させないような治療戦略(集学的治療)が求められるべきです。進行した難治がんに対してこそ、医師サイドの真の実力が問われるわけで、周りの平均的な生存率と比べて遜色ないから問題ないというスタンスでは進歩がないでしょう。そのような外科医に限って、「俺の手術は、鮮やかで手術時間も短くて上手だろう?」と自画自賛する傾向が強いようです。

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