肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方3 「生存率」をどのように読み解くのか?

ドクター新潮 医療 がん

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ステージⅣだから抗がん剤でしょ

進藤:こうしたデータの読み解き方は大場先生の方がプロですから私が答えてよいものかどうかとも思いますが、このデータの解釈は、2つの側面から考える必要があると思います。第一に、施設によって手術適応の考え方が大きく異なるという問題があります。

 大腸がんの場合、肝転移や肺転移があっても切除によって一定の割合で治癒が期待できることから、「切除できるものは外科的切除で治癒を目指す」という考え方が現在では一般的になってきました。しかし、この「切除できる」という概念の定義が問題で、例えば肝臓だけを考えても、腫瘍の大きさ、個数、場所、肝臓の機能などによって「切除できる・できない」の判断は施設によって大きく異なってきます。

 いわゆるハイボリュームセンター(症例数の多い施設)では相当な進行症例でも手術による根治の可能性を追求するというところが多いと思いますが、この「切除できる・できない」の判断は、専門医の有無、外科医の経験や技量、施設のリソースなどに大きく影響されますので、規模の小さな病院で、肝切除も年間数件あるかどうかというところではやはり「切除不能」と判断されてしまうことが多いわけです。

 大腸がんは病巣をすべて根治的に切除できなければ基本的に治癒は得られませんので、治療の中に「手術」というオプションがあるのかどうかは生存成績にかなり大きく影響する部分です。そうした意味でがん治療の地域格差というものは残念ながら存在していますし、そこは大きな生存率の差として現れてくる部分です。

 一方で、いわゆるハイボリュームセンター間の成績の比較については、同じステージIVでも施設毎に患者層が全く異なるということを考慮しなくてはいけません。より進行している患者さんが多い施設の成績は当然のことながら数値としては低く出るためです。

 大場先生が上記で挙げられた施設はすべて東京大学肝胆膵外科の関連施設でもともとは同門ですから、手術に関する基本的な考え方や治療のポリシーは似通っていますし、それぞれの施設におけるステージIVの患者さんのうち肝転移のみを有する患者さんだけに限ってみてみると、5年生存率は大体50-60%に落ち着くはずです。世界の主だったハイボリュームセンターの成績はそのくらいの値になることが経験的に知られています。

大場:「地方だから治せるチャンスを逸してしまってもやむを得ない」と考えてよいものなのか悩ましいところです。一方で、進藤先生の言う専門医の有無、外科医の経験や技量、施設のリソースなどが揃っていても、決して満足できる生存率に達していない施設もありますよね。転移臓器が肝臓や肺であっても、元の病気は大腸がんですから、大腸外科医が主治医であることがほとんどでしょう。あるいは消化器内科とか?

 その際、肝臓外科医や呼吸器外科医にしっかり相談しているのかどうか、ステージⅣだから抗がん剤でしょ、という理由で腫瘍内科医に安直に預けてしまってはいないか。患者を紹介された腫瘍内科医は、手術ができる・できないを外科医たちと時間を割いて議論するより、自身の業績となりやすい新規抗がん剤の治験にエントリーさせたほうがよほど話が早いわけです。抗がん剤としてはいくら良い治療成績が生み出せたとしても、患者にとって治癒するチャンスは永遠に失われるわけで。友人の腫瘍内科医たちの気分を害するかもしれませんが、進藤先生、いかがでしょうか?

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