欧米で人気の写真共有アプリ「BeReal」とは? 重加工が支配する世界に誕生した“リアル”(古市憲寿)
アメリカやイギリスの学生の間で「BeReal」という写真共有アプリが流行している。アプリから通知があると、ユーザーは2分以内に自分の写真を撮影・公開しないといけない。フィルターによる加工もできない。とにかくリアルな写真を友人に見せろというのだ。その2分に遅れると友人には「遅れた」と通知され、そのまま投稿しないと友人の写真を見ることもできない。
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要は、仲間外れにならないためには、通知があったらすぐ、ありのままの自分をさらさなければならない。大学の講義、散らかった部屋、散歩中の田舎道、というように世界中の若者の「リアル」がのぞけるアプリだ。
フェイクに満ちたネット空間に対するアンチテーゼとしては面白い。インスタグラムでは修整や、撮影から投稿までに間を空けるのも当たり前。もはやインスタの世界を「リアル」だと考えられるほど我々はナイーブではない。
動画も簡単に修整できる時代だ。それは「イーロン・マスクとリモート会議をするウクライナのゼレンスキー大統領の机の上にコカインを足す」というような露骨な修整もあれば、キャプションや編集を工夫するという場合もある。
昔の週刊誌が得意だった手法だが、同じ素材でも、見出しを変えるだけで読者が受ける印象はまるで違う。3人の男女が歩いている写真を切り取って2人にすれば、デート写真に見える。誰かに殴られて反撃した人がいたとして、後半だけを公開すれば、反撃した人が悪者に見える。
情報とは切り取り方である。YouTubeでは切り抜き動画が流行している。人気YouTuberの中には、数時間にわたる生配信をする人がいるが、視聴者は全てを観られるほど暇ではない。そこで本人公認のもと、面白い箇所だけを1分ほどの動画に切り抜く人々がいる。
考えてみれば、編集に満ちたテレビは元祖切り抜き動画だし、情報ということでいえば、新聞も本も村の伝承も切り抜きだ。森羅万象を理解し、経験することのできない人類にとって、世界を理解するために、切り抜きは欠かせない。
だから切り抜きが悪いわけではない。同時に切り抜きには、多分に編集者の意図が介入していることを忘れてはならない。その意味で、「BeReal」の世界も必ずしもリアルだとはいえない。
カメラとフィルムが高価だった時代、人々は「ここぞ」という時にしか写真を撮影しなかった。アプリの命令によって、何でもない時に写真を撮影して公開するなんて、昔の人からすればアンナチュラルもいいところだろう。
どこかに「リアル」があると想定するところに無理がある。人間は、化粧をして、身なりを整え、言動に気を使う社会的な生き物だ。その全てを取っ払った姿は、人間にとってリアルといえるのだろうか。芸能人のインスタグラムの、あまりにも露骨で大胆な加工が批判されることがある。だが、その執念にこそ、人間らしさを感じてしまう。ここにリアルな人間がいる、と。