対談連載:難治がんとの賢い闘い方1 東京目白クリニックの大場大院長×虎の門病院消化器外科の進藤潤一医長

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子宮頸がんワクチンと新型コロナワクチン

進藤:メディアを通じた我々の言動の一つ一つは世界を正しい方向にも、誤った方向にも導いてしまう可能性があるわけで、「専門家」として一般向けに情報を発信するということは同時に大きな責任を伴います。専門家と評論家を分けて考えられないところ、発信する情報が一般に与える影響にまで責任を持たないところがこの国のメディアの問題の一つであるとも思います。

大場:ご指摘の通りだと感じます。例えば、新型コロナウイルス感染症ワクチンでは副反応は許容できても、子宮頸がんワクチンの話になると様相が一変してしまうというのも同種のものかもしれません。コロナワクチンだと現状はウイルスに感染しても重症化を防ぐ程度の効果しか期待できません。一方で子宮頸がんワクチンの有効性のインパクトはまったく異なります。ハイリスクのヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐことで、その先にある子宮頸がんを予防することもできるわけです。子宮頸がんは国内で年に約1万1000人の女性がかかり、2900人以上の生命を奪っているとされています。

この子宮頸がんワクチンは2013年4月に定期接種へ追加されたのですが、様々な副反応を訴える女性が相次ぎ、厚生労働省はそのわずか2ヶ月後に積極的な接種の呼びかけを中止したという経緯があります。それから8年余が経過したこの4月より、子宮頸がんワクチン接種の「積極的勧奨」が再開となります。それでも、この間に接種の機会を逸した、発がんリスクに晒されている国内の若年女性はおよそ260万人もいるとのこと。キャッチアップ接種も行われるようですが、遅きに失したと言うほかありません。

生活習慣病化している肝がんについて

大場:このような事態を招いた反ワクチン派の人たちは、不良な科学リテラシーを振りかざすのみで、実際の子宮頸がん患者さんの苦痛やご家族の苦悩をまったく理解できていないのでしょう。実は、私のクリニックでも、両方のワクチン接種を行っていますが、コロナワクチンの方が発熱や疼痛、消化器症状などの副反応がしばしばみられるのに、子宮頸がんワクチンの方は接種後ほとんど問題になったことがありません。長期的にみた安全性となるとコロナワクチンの方がデータが不十分で、一抹の不安があります。

本筋に戻りましょう。ウイルス感染という出来事が強い要因として発がんするのは、先に述べた子宮頸がんもそうですが、代表的なのは肝細胞がんです。通常、肝がんという言い方もし、主な原因はB型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスによる感染です。国内における罹患数の順位をみても全体で5位、年間2万5000人以上の方が亡くなっています。世界中の肝臓外科医に数々の業績を認知され、これまで1500例近い肝臓外科手術(肝切除)を執刀してこられた進藤先生に、肝がんについて簡単に説明していただければ――。

進藤:肝がんは通常、様々な原因によって「傷んだ」肝臓(慢性肝炎や肝硬変)に発生するもので、世界的にみるとその原因の多くはB型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎です。私が医師になった20年くらい前は、肝がんの患者さんと言えばB型肝炎が2割、C型肝炎が7割といった印象でしたが、近年のウイルス治療の進歩によりB型肝炎やC型肝炎を原因とする肝がんの患者さんの数は大幅に減少し、現在では半数近くが脂肪肝、糖尿病、アルコール多飲といった生活習慣に関連したものに変わってきています。

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