「仮面夫婦」にも色々… 52歳夫が“妻の方が上手だ”と思う理由

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キャバクラ通いもお咎めナシ

 家族3人、週末はいつも一緒だった。娘を連れてあちこち出かけながら、尚吾さんはもう一度、美紀子さんに惚れ直してもいた。

「ふたりとも家事にはけっこうアバウトだったけど、3人でおいしいものを食べようと一緒に料理をしていましたね。子どもがいるとうちで食べるのがいちばんのんびりできるから。娘が小学校に上がってしばらくたったころからですかね。美紀ちゃんも僕も仕事が忙しくなって、娘は娘でいろいろなことに興味を持ちだして友だちもたくさんできて。それぞれがそれぞれの人生を歩み始めたのかもしれません」

 美紀子さんとゆっくり話す時間もなかなかとれず、派手なことが嫌いなはずの尚吾さんがキャバクラ通いにはまったこともあった。誰かに「うんうん、それで?」と話を聞いてもらいたかった。「がんばってるね」と言ってほしかった。美紀子さんに仕事の話をしたこともあるが、共感より先に詳細なアドバイスが飛んできて、心は安まらなかった。

 キャバクラ通いをして帰宅が深夜になっても、美紀子さんは追求してくることもなく、ごく普通の態度を貫いていた。

「美紀ちゃんは本当に個人主義。自分は自分、人は人。父親の仕事の関係で、子ども時代を外国で過ごしたことが関係しているのかもしれません。娘は彼女そっくりです」

 そんな娘は、高校から外国に行きたいと言い出した。美紀子さんは大賛成だったが、尚吾さんはかなり迷った。だが、娘の希望は叶えてやりたい。幸い、美紀子さんの遠縁にあたる女性がヨーロッパにいたため、中学2年と3年の夏休み、娘はその地で過ごした。帰ってくると一回り大きくなっている。子どもの吸収力はすごいと尚吾さんは舌を巻いた。

「結局、娘に押し切られて高校生から留学、そのまま大学も向こうです。僕と美紀ちゃんは娘が産まれて15年で、またふたりきりになりました。それでも年に1回は一緒に娘に会いに行きましたが、僕はなかなかなじめなくて。やっぱりご飯に納豆が恋しくなるんですよね」

 美紀子さんは「私もあっちに住みたいなあ」と言い出しては、尚吾さんをあわてさせた。

妻にはない「甘い気持ち」を求めて

 美紀子さんのことが大好きで、もう一度、恋人同士のころに戻りたいと願っていた尚吾さんだが、40代になった美紀子さんはますます仕事にのめり込んでいく。スポーツジムに通い始めて新しい友だちもできている。

「彼女は『一緒に行く?』と言ってくれるタイプではない。僕が一緒に行きたいといえば来ないでとは言わないはずだけど、なんだか言いそびれてしまって。彼女は常に1歩先を行っているんですよ。まあ、そんな彼女が好きなんだけど」

 のろけているのか愚痴を言っているのかわからない。周りからもいつも「尚吾は我が道を行く美紀ちゃんが好きなくせに、そんな美紀ちゃんに嫉妬している」と言われるそうだ。本当は心の隅で、好きな彼女に頼られたい気持ちがあるのだろう。

「男女の関係って、完全にフィフティフィフティとはいきませんよね。頼ったり頼られたりすることで、必要とされる醍醐味を味わうものじゃないですか。でも美紀ちゃんは頼るのも頼られるのもあまり好まない。本当に困ったら助けてくれるとは思うけど、感情を排除したところでてきぱき判断するから、感情だけが残されてしまうんです」

 次兄の娘が大学に進学するとき、尚吾さんの家に下宿させたらどうかという話があった。美紀子さんは「私は面倒を見ることができないし、責任ももてない」とはっきり言い、大学生のための寮を探し出して情報を提供した。

「正しいんです、美紀ちゃんは。だけど次兄としては、『未成年だから心配でしょう?』と寄り添ってくれることを期待していた。だから美紀子さんは冷たいと言われてしまう。でも美紀ちゃんとしては、責任もてないことを引き受けるほうがよっぽど無責任、表面的に心情をわかったふりをするのも失礼だということになる。未成年だから心配でしょなんて自分は思ってないからって(笑)」

 美紀子さんは正直なのだ。性格がわかればつきあいやすいタイプだろうが、ウエットな関係を望む人にはつきあいづらいかもしれない。

 妻の性格を知り抜いている尚吾さんだが、やはりもうちょっと甘い気持ちになりたい、労り合ったり慰め合ったりしたいと思うこともある。

「3年ほど前、仕事で知り合った20歳年下の里緒さんと恋に落ちました。甘い言葉が行き交うような関係になった。仕事を終えて外に出たとき満月がきれいでね、彼女に思わずメッセージを送ったんです。『この月をきみと一緒に見たい』と。そうしたらすぐに『同じ月の下にいるのね』と返ってくる。『今すぐ会いたい』となりますよね。美紀ちゃんとはこういうやりとりは皆無でしたから、なんだかこれこそ恋だと思い込んではまっていきました」

 里緒さんはキラキラした目で彼を見る。そんな彼女と旅をしてみたい。日常を捨ててみたい。尚吾さんはそんなふうに考えるようになった。

「ちょうど仕事でヨーロッパに行く用があったんです。別にその時期にどうしても行かなければいけないわけではなかったけど、一応、視察という名目もつけられるし、仕事関係の学会みたいなものもありまして。彼女に一緒に行くかと尋ねたら『連れていってくれるの?』と、またキラキラした目で見つめてくる。彼女も仕事はできる人なんですが、甘え上手でもあるんですよね」

 一般的に、多くの男は甘えてくる女が好きなのだろう。その甘えが、彼のキャパシティの範囲内であれば、彼女を愛しいと思うのだ。キャパを超えれば「うっとうしい」となる。男女逆転しても同じかもしれないが、女は男ほど甘えられるのを好まないのではないだろうか。

「コロナ禍寸前に、彼女と一緒にヨーロッパに行きました。彼女がフランスに行きたいと言っていたので、仕事を終えてから南仏で数日、パリで数日過ごしました」

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