42歳男性は夜の生活を拒まれ、妻からの“一言”で狂った… 彼女の言葉に悪意はあったのか

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その矢先、「恋」に落ちた滋明さん

「結局、僕自身が彼女に何を望んでいるのか、わからなくなっていきました。家事をしてほしいわけじゃない、彼女が生き生きと暮らしていてくれるのがいちばんなんだけど、彼女は舞台関係の仕事がなければ輝けないだろうし……」

 彼女の苦しさは彼の苦しさになった。だが、どんなに苦しんでも、彼は彼女ではない。「他人なんだな」という思いだけが強くなっていく。人は愛情で同化はできない。

 それでも梨枝さんは荒れたりはしなかった。美容師として働きながら、舞台関係の仕事を得るためにさまざまな努力をしていたようだ。

「梨枝と知り合うきっかけとなった友人から連絡があって、梨枝が力のある人と関係をもったりしている、と。『梨枝ちゃん、大丈夫かよ』と彼が心配してくれて。それもショックだったけど、僕がとやかく言えないなとも思った。彼女がどういう方法で仕事を得ても、それは僕とは関係ないから。冷たい意味ではないんです。彼女は独立したひとりの人間。彼女が何をしようと僕は彼女の味方でありたかった」

 そう思っていたにもかかわらず、彼は彼でふとした拍子に「恋」に落ちてしまう。大学の後輩だと名乗る美穂さんが就職活動の一環として、彼を訪ねてきたのだ。

「大学3年生の彼女は、別にうちの会社を第一希望にしているわけではなかった。むしろ同業他社を希望していたようです。ただ、サークルも同じだったから、僕に親近感を抱き、業界のことを聞きたいとやってきたんです」

 ランチをとりながら話をした。彼女は熱心で何度も訪ねてきた。まっすぐな若さがまぶしくて、彼も応じた。美穂さんが彼のいる会社を受けないとわかったあと、彼は彼女と関係をもった。誘ったのは美穂さんだった。

「彼女、目をキラキラさせて僕を見るんです。僕なんてたいして有能な社員ではないですよ。だけどちょっと仕事のことを話しただけで、『すごい』と尊敬の眼差しで見られたら、クラクラしちゃって。飲みに行くとしなだれかかってきて、外に出たら歩けないと甘い声で言われて。『就職なんてしないで、小林さんみたいな人と結婚したい』と彼女は言いました。彼女、ホテルでアイロンを借りて僕のワイシャツにかけてくれたんです。アイロンのいらないシャツを着ていたけど、しわになっていたんですよね。『できるビジネスマンはピシッとしてなくちゃね』とピンと張ったシャツを見せてくれたとき、情けないんですが、僕はこういう女性の愛情に飢えていたんだとわかりました」

 滋明さんの母親は家事が苦手だった。夫のシャツにアイロンをかけたこともないだろう。父が自分でアイロンをかけていたのを思い出した。滋明さんの私服にも父はアイロンをかけてくれていたのではなかったか。

「なんだか自分の女性像がガラガラと崩れていくような気がしました。梨枝を愛していると思っていたけど、僕が本当に望んでいたのは、古典的で家庭的な普通の女性だったのかもしれない」

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