手提げ金庫で売上金を管理する者はいなくなるか? 「暴力団離脱者」の口座開設支援に乗り出す警察庁の勝算とカベ

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排除されることがないよう

 2月1日、警察庁は、金融庁や各県警に対して、「暴力団離脱者の口座開設支援について」と題した文書を送り、金融機関への周知と協力を要請した。その意義について、龍谷大学犯罪学センター嘱託研究員(治療法学)で、「暴力団博士」の異名を持つノンフィクション作家の廣末登氏がレポートする。

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 今回の口座開設支援は、従来の方針からの大きく軌道修正を図ったもので、筆者は警察庁の英断として高く評価したいと考えている。その理由を述べるまえに、まずはこの要請のもとになっている文書を引用しておこう。

「2017年12月に閣議決定された再犯防止推進計画に基づき、関係機関・団体と連携して、暴力団員の社会復帰対策を推進しているところ、暴力団から離脱した者、いわゆる『暴力団離脱者』が、就労先から給与を受け取るための給与を受け取るための預貯金口座開設を申し込んだ場合において、過去に暴力団員であったことを理由として排除されることがないよう、都道府県暴力追放運動推進センターと連携して、暴力団離脱者の預貯金口座の開設に向けた支援を行う」

 なお、この周知文書では、口座開設に係る反社会的勢力排除に向けた取組みは、口座の利用が個人の日常生活に必要な範囲内である等、反社会的勢力を不当に利するものではないと合理的に判断される場合にまで、一律に排除を求める趣旨のものではないとしている。

過去の様々なハードルとは?

 口座開設の要件としては、(1)暴力団から離脱していること、(2)警察又は都道府県暴力追放運動推進センター(以下、暴追センター)の支援により協賛企業に就労していること。(3)離脱者及び協賛企業が警察等の行う取組に同意していること、(4)支援が妥当ではない事情がないことを挙げる。

 ここでいう協賛企業とは、都道府県の暴力追放運動推進センターに登録している民間企業であり、暴力団離脱者を雇用することに前向きな雇用主のことである。

 これまでは、暴力団離脱者が協賛企業に就労し、銀行口座開設に至るには様々なハードルがあった。

 そもそも、離脱して協賛企業に就職したくても、警察署や暴追センターは暴力団員には敷居が高く近寄りがたい。しかし、そこで離脱認定されなければ、「離脱」したと正式には認められない。さらに、当局から離脱したと認定されても、5年間は口座開設ができない。この5年のカウントがいつから始まるのかということも不明瞭であったから、離脱した暴力団員が社会復帰において不安を募らせることは想像に難くない。

 金融機関は組員から口座開設の申し込みがあった場合、警察庁や独自の反社データベースに照会をかけ、該当した場合は「契約自由の原則」に基づき口座開設を謝絶するケースがあった。

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