最凶ヤクザから、最強主夫へ!? 人気コミック『極主夫道』をヤクザの専門家が読んでみた

国内 社会 2018年9月28日掲載

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 実生活ではできればお近づきになりたくないかもしれないが、「極道の妻たち」「仁義なき戦い」を始め、「アウトレイジ」やBSジャパンで放送された「極道めし」など、昔から「極道」をテーマにした作品は多い。
 さらに最近では「極道」を扱ったマンガも話題のようだ。今年8月に発表された「次にくるマンガ大賞2018」では、コミックス部門1位に極道の家に生まれた女子高生が主人公の『来世は他人がいい』が、Webマンガ部門3位に専業主夫になった元ヤクザが主人公の『極主夫道』がラインクインしている。ちなみに、『極主夫道』の作者のおおのこうすけさんは、今回の作品が初めての連載にもかかわらず、8月のコミックス発売後、大きな話題となり既に16万部を超えるヒットとなっているという。

 なぜ「極道」なのか。『極主夫道』の担当編集者は「極道的な外見と、行動やしぐさの“ギャップ萌え”がジワジワきて、クセになるのではないか」とヒットの理由を分析する。
 
 内容を紹介すると、主人公は元ヤクザ、通称「不死身の龍(たつ)」。丸腰単身で10カ所の組事務所を潰したことからそう呼ばれて恐れられた。わけあって足を洗い、今は専業「主夫」。愛妻・美久はデザイナーとして働くバリキャリだ。
 龍の彫り物を背負う身にダークスーツをまとうスタイルは「現役」のままだが、今はその上に柴犬キャラクター(!)の入ったエプロンをつけて家事に励む。

 担当編集者いわく「非常に研究熱心」だというおおのさんは、ドラマや映画、書籍などから「業界」について詳しく調べているという。
 龍の振る舞いにはヤクザ時代の所作が見え隠れし、美久の誕生日祝いには部屋に祭壇を設えて「八幡大菩薩」「天照皇大神」「春日大明神」の三軸を掛けるという凝りようだ。

 おおのさんに話を聞いてみると、「ノンフィクション系の書籍などを読むと、ヤクザの組長は実は『動物好き』が多いなどのちょっと変わった一面が興味深いです。また組をやめた元ヤクザの人たちの本では、現役時代の武勇伝だけでなく、どのように地域社会と接点を持っていくのかなどのリアルな世界を知る事ができました」と、研究成果を明かす。

 おおのさんが参考にしたという一冊が、元ヤクザ・ノンフィクション『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。』。そのタイトル通り、暴力団・元幹部の中本さんが獄中離脱し、出所後うどん店を営むまでの苦労を描いた話だ。

 マンガの中で龍は、妻のために弁当を作ったり、さらに掃除、洗濯、買い物まで、甲斐甲斐しくいそしんでいる。実は「主夫業」とは無縁そうな極道の世界だが、事務所当番で食事を作ったり、掃除をしたりなどをする制度がある。うどん店主となった中本さんも、「当時の事務所当番の経験が今に活きている」と同書の中で明かしている。

長袖のワケ

 親分が勤務中(事務所在席時)で外食しない限りは食事の支度は事務所当番の役目。親分が「あれ食べたい」といえば食べたことも作ったこともなくても「あれ」を作らなければならないそうで、材料の買い出しからすべてこなすという。
 中本さんは「うちの親分はきっちりした人で、出汁もちゃんと取らないといけなかったり、手抜きするとすぐバレて怒られた」と当時のことを振り返る。
 しかし、そうした経験もあったからこそ中本さんは、うどん店をやろうと思ったと語っている。

 さらに同書によれば、掃除も事務所当番の大事な仕事で、言われる前に気づいて率先して片付け・掃除ができることが重要だという。同様に、親分の身の回りの世話は何事でも先回りして用意する、つまり煙草を持ったらすかさず火を点けたり、出かける素振りなら靴を履きやすく出す、入浴時は着替えを用意して脱いだものをたたむ、風邪気味で喉の調子が悪そうだったら加湿器を買ってきて設えるなども大事な仕事のうちだとか。要するに“いい主婦”がしそうなことは、事務所当番が親分にすることと似ているらしい。

 ちなみに、マンガの中で龍は長袖シャツを着ているが、実は常に長袖なのも元ヤクザの特徴の一つ。彫り物が見えないようにするためで、中本さんも夏場は50度以上になる厨房の中でも常に長袖だという。

『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。』著者の廣末登さんは、犯罪社会学者として長年、暴力団について研究・調査してきた、「極道」のスペシャリスト。最後に、極道の世界をよく知る廣末さんに『極主夫道』の感想を聞いてみた。

「カタギの日常に、そこまでヤクザのサブカルを入れるか? とツッコミを入れたくなるのがかえって魅力なんでしょうね。しかし、主人公が徹底してヤクザの尺度で世渡りしている点なども人気の秘密なのでは? ヤクザやグレー社会の住民が見たらセリフや動作が『ここで使う?』と面白がるでしょうし、カタギさんが読んだら、『何じゃこりゃ』『こういう時、こういう表現するんだ』と、興味を持つのではないでしょうか。個人的には『ナルホド』とは思いましたが、リアルの人たちのなかなかシビアな現実を知っているので(笑)、あくまでもマンガとして楽しく読みました」

 確かに、家の中で包丁代わりにドス使うなんて、ありえないだろっ!ってツッコめるから面白いのであって、現実世界では銃刀法違反だしなあ……。

デイリー新潮編集部