昔の恋人との過ちで家庭崩壊… 妻には非がないと言いながらも53歳「不倫夫」が抱える矛盾

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「認知したい」と妻に打ち明けると…

 瑠美さんの10歳になった息子は、妹が今後、日本で育てていくことになった。妹は結婚しているが子どもがいないので、姉の息子といずれは養子縁組をする意向だという。大きな後悔を抱えた雅仁さんは、コロナ禍で家にいる時間が増えたとき、妻の友里恵さんにすべてを告白、せめて認知だけはしようと思うと言った。

「友里恵は、『あなたが何かを隠していることは薄々わかっていた。うつで休職したときだって何も話してくれなかったから、今回も何も言わないだろうと思って聞かなかったけど、それは私たちに対する裏切りではないの?』と。謝罪より先にどうして認知の話が出てくるのかわからないと言われました。その通りですよね。友里恵と瑠美とではまったく立場も違うし、私の気持ちも違う。だから裏切ったつもりはないんですが、それは妻には理解してもらえない」

 雅仁さんは、わかってほしいと思うこと自体が間違いだったのだろうと思い、独断で瑠美さんの子を認知した。時間があれば妹の家に寄って息子とも話した。息子は母親から彼のことを聞いていたらしく、素直に懐いてくれた。それがまたいじらしく、雅仁さんは息子に会うたび涙が出るという。

「でもそうこうしているうちに、次女は私と8歳しか違わない男と同棲を始め、長女は遠方にいるのをいいことに帰ってこなくなりました。長女はともかく、次女の件は大反対したのですが、次女には『おとうさんに娘の人生を反対する権利、あるの? そもそもそんなこと言える立場?』と言われて何も言えなくなった。妻は『もうみんな、勝手にすればいい。私は知らない』と21年の秋には出て行ってしまった。誰もいなくなった自宅で、私はひとり正月を迎えたというわけです。息子は瑠美の妹の家でいい正月を迎えていると思います」

 雅仁さんの後悔はただひとつ、瑠美さんとの関係に向いている。自分が友里恵さんと築いた家庭が破綻していることに後悔はないのだろうか。

「うーん」

 彼が唸った。

「今になると、友里恵と結婚した時点で人生の歯車がおかしくなっていたとも言えるような気がするんです。もちろん妻にも子どもたちにも非はない。ただ、私は家庭を壊す意志はなかった。認知さえできればよかった。瑠美もすでにいないわけですから、友里恵さえ気持ちを整理してくれればうまくいったはずなんです」

 妻に非がないといいながら、許さなかった妻をどこかで責めている。責めるつもりはないと言うが、やはり「妻さえ許してくれれば、家庭は崩壊しなかった」と思っているのだ。その矛盾点を突くと彼は黙りこくってしまう。

「これからどうなるのか。妻から離婚を求められるでしょうね。娘たちは成人していますから、あとは見守るしかない。息子とはなるべく一緒にいる時間をとりたいけれど、瑠美の妹夫婦の邪魔もしたくない。結局、私としては何もできないので、運を天に任せるしかないような気がします。私は瑠美のように人生を切り開いていくタイプではないんだなと今でも思います」

 謙虚で誠実なところもある雅仁さんだが、なぜか自分の家族に対しての深い思いだけは感じられない。妻の友里恵さんはいったい今、どう思っているのだろう。

〈コンビニでおせちのようなものを買いました。毎年、妻は多忙な中、煮しめや黒豆などさまざまなものを作ってくれていたんだと改めて感じ、酒飲みながら泣いています〉

 雅仁さんへの取材を終えた元日の夕方、そんなメールが彼から来た。返事のしようがないまま、正月が終わりそうだ。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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