昔の恋人との過ちで家庭崩壊… 妻には非がないと言いながらも53歳「不倫夫」が抱える矛盾

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「私を信用していないのね」

「妻に非はありません」

 雅仁さんはずっとそう言っている。結婚して子どもが生まれてから一時期、妻は専業主婦として家を守り、子どもを育ててくれていた。その時期、雅仁さんは多忙で出張も多く、共働きではとてもやっていけない状態だった。そして下の子が小学校に上がったのを機に、妻はパートで働き始め、中学生になるとフルタイムで正社員に復帰した。

「その間も妻はさまざまな講座を受けたり資格を取ったりしていたようです。話は聞いていたけど、どんな資格だったかは覚えていません。こういうところが妻から度々ダメ出しを食らったところなんですが、私は正直言って、仕事を最優先するしかない状態でした」

 その代わり、出張のない週末は子どもたちの面倒をみて妻に自由な時間を過ごしてもらったり、夕食を作ったりといろいろ協力と工夫はしたつもりだった。同世代の男性たちの中でも、かなり家庭を大事にしていたはずだと彼は自負している。

「学生時代の友人とか職場の同僚とかと話すと、自分がいちばん家事も育児もしていると思っていました。みんな『仕事が忙しいのに、よくそこまでやるな』と言ってくれていたし。でも妻にとってそれは当たり前で、もっと家事をしてほしい、もっと家に目を向けてと思っていたんでしょうね」

 40代になったころ、妻から「何か一緒に趣味を始めない?」と言われたことがある。だがちょうどそのとき、彼は仕事上で大きなストレスを感じていて自分をうまくコントロールすることができなかった。

「だから『オレはそれどころじゃないんだよ。友里恵は暇でいいな』と言ってしまったらしいんです。らしい、というのは自分では覚えていないから。その言葉に彼女はいたく傷ついたようです」

 そんなことが何度かあったようだ。言葉遣いには気をつけていたという雅仁さんだが、結婚して10年がたち、少し気が緩んでいたのかもしれない。何を言っても妻は受け止めてくれるという甘えもあっただろう。

「そのときの友里恵の反応も記憶にないんです。ただ、その後、自分は抱えていたストレスがさらに増大して、うつ状態になり、しばらく休職したほうがいいと医師から指摘されました。とりあえず3ヶ月ほど休職することにしたんですが、実はそれを妻には言えなかった。だからいつものように出勤するふりをして、子どもたちが学校へ行き、妻が出勤した時間を見計らって家に戻ったり、別の地域の図書館に行ったりして時間をつぶしていました。ところがあるとき、それを近所の人が見ていて妻に話したみたいなんです。妻に問われて、やっと正直に話すと、妻は涙目になりながら『あなたは私を信用していないのね』と。信用していないわけではないけど、自分のプライドが話すことを拒んだのかもしれないと言いました。でも妻には理解してもらえなかった」

 世間でいう「いい妻」ほど、夫は無言の圧力を感じているのかもしれない。雅仁さんの妻も「よくできた人」なのだ。だから夫は正直に弱音を吐けなかった。

 その後、妻は「うつ」について猛烈に勉強したらしい。「うつというのはこういうもので」と夫に向かって懇々と説教じみた話を伝えたりもした。妻の気持ちはありがたかったが、それもまた、雅仁さんにとってはプレッシャーだった。本当は放っておいてほしかった。安いホテルにでも泊まってひとりきりになりたかったが、一生懸命に夫を元気にしようとしている妻にそれは言い出せなかった。どちらが悪いという話ではない。

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