社内不倫していた繊細な夫 彼女と別れた今、「妻と愛人」へ不信感を抱いてしまう理由

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 現在の婚姻制度では、“不貞”をしてはいけないことになっている。だが実際には、おそらく繁華街で石を投げれば不倫している人に当たるくらい、「よくある話」だ。

「結婚したら他の人に恋をしてはいけないというのが、そもそも無理なこと」と言われる。結婚してから本気で好きになる人と出会ってしまうこともあるのだから。【亀山早苗/フリーライター】

「僕の場合、妻に非はない。それなのに恋をしてしまいました。でも彼女とは愛があるのに、いや、愛があるからこそ別れました。身が引き裂かれるほどつらいけど、彼女が同じように感じているかどうかはわからない。理不尽な話ですよね」

 目を潤ませながらそう訴えるのは、宮田潤さん(43歳・仮名=以下同)だ。同い年の妻・奈美絵さんとの間に、14歳のひとり娘がいる。

「妻とは友だち婚ですね。同じ会社の同期なんです。奈美絵は出会ったころからまったく変わっていません。友人が多くて明るくて、彼女が落ち込んだところをほとんど見たことがないんです。異常なほどのポジティブ思考(笑)。それで仕事もうまくいっている。だけど陰気な夫としてはつらいこともあります」

 10年ほど前、奈美絵さんは若くして婦人科系のがんにかかった。ごく初期に発見されたものの、「普通だったら、やっぱりショックで落ち込むのではないか」と潤さんは言う。ところが奈美絵さんは宣告されたその日に、グーグーいびきをかいて寝ていたそうだ。あとから聞くと、「体力つけないといけないと思って、いつもよりたくさん食べたらすぐに眠くなった」と笑っていたという。どれほどの胆力なのか。

「僕は奈美絵よりもうちょっと繊細なんですよ(笑)。たとえば洗濯物ひとつとっても畳み方が気になるし、料理も繊細な和食が好き。でも奈美絵は洗濯物なんて乾いていればいいし、料理はボリュームのあるものが好き。がさつというと言い過ぎですが、大雑把ではありますね。だからといって、僕が繊細であることを笑ったりはしない。そこが彼女のいいところです」

 惚気ているように聞こえるが、決してそういう意味ではない。一緒に生活していくには繊細な潤さんのほうが「我慢することが多い」のだそう。だからといって離婚したいわけではないし、妻の大雑把さを好ましく思ってもいる。

「ひとり暮らしの母が風邪をひいて寝込んだとき、奈美絵はすぐに駆けつけてくれる。だけど手の届くところに飲み物や熱いおかゆなどを用意すると、さっと帰ってしまうと母が言っていました。奈美絵としては風邪がうつったら大変だし、自分がいてもしてあげられることは他にはないという考え。重病ではないし、対応としては正しいんですが、そこが奈美絵の奈美絵たるゆえんなんですよね。普通はもうちょっと情のある接し方をするでしょ。彼女は情が深いタイプです、本当は。だけどいざとなると理屈で動く。しかも大雑把に。そこがおもしろいんですけどね。僕なら用がなくても病人のそばに居続ける。そこが違う」

「奥さんは出世しているのに、きみはダメだなあ」

 理と情のバランスが絶妙なのかもしれない。ある意味ではわかりやすいので、潤さんとしては、「こういうとき奈美絵ならどう動くか」はすぐ察知できるという。

「それだけに人としての興味を失ってしまったのかなあ。言い方が悪いですね。そうじゃなくて、奈美絵をリスペクトはするけど、感情の起伏がなさすぎて一緒にいると疲れるというか……」

 贅沢な言い分である。決して不機嫌にならない妻がいることを、世の男性がどれほど羨ましがるかわからない。

「隣の芝生は青いんでしょうかね」

 潤さんは苦笑した。

 奈美絵さんは会社の花形ともいえる営業部に所属している。取引先を熱心に訪問することから信頼も厚い。次期営業部長という噂もある。

 一方の潤さんは、入社当初から総務や人事など会社の土台を支える部署を行ったり来たり。華やかに活躍するタイプではないと自分でもわかっている。

「昔は『奥さんは出世しているのに、きみはダメだなあ』と上司に言われて傷ついたこともあります。でも娘の世話は僕のほうがうまかったし、今も僕に懐いている。向き不向きがありますから、彼女は仕事に向いていて、僕は家庭に向いていたんでしょうね」

 奈美絵さんも、「ダンナの立場も考えてやれ」と職場で言われたことがあるそうだ。もちろん、奈美絵さんはそんなことは気にもせず、自分の道をまっしぐらに進んできた。そういうところも潤さんから見ると「羨ましいし尊敬する。でも僕にはできないなと思う」そうだ。

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