社内不倫していた繊細な夫 彼女と別れた今、「妻と愛人」へ不信感を抱いてしまう理由

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彼女には素の自分を見せられた

 それができなくなったのは、彼女への恋心を意識してから1年近くたったころ、ひとり暮らしの母が急逝したのがきっかけだった。持病もなかったのにスポーツジムで突然倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。

「いきなり死なれてあまりのショックで、10日ほど会社を休んでしまいました。奈美絵は葬式が終わるとすぐ仕事復帰していましたが、僕はとても仕事などできなくなって。僕には兄がひとりいるんですが、遠方に住んでいるので、やはり葬式が終わるとバタバタと帰っていきました。ひとり取り残されたような気がしてね。その2日前に娘と一緒に行って食事をしたんですよ。奈美絵は残業で来られなかったけど、母は娘の大好きなハンバーグや煮物を作って待っていてくれた。いつもと変わらなかった。ただ、70歳を越えた母が少し小さくなっているような気がして、帰り道、そろそろ同居を考えようかと思っていたところでした」

 茉利奈さんはすぐに連絡をくれた。さりげなく慰め、励ましてくれた。いくつになっても親が亡くなれば悲しいことを、この子はわかってくれる。潤さんはそう思ったという。

「やっと会社に出た日、茉利奈ちゃんが食事に誘ってくれたんです。その日は奈美絵が早く帰れると言っていたから、ふたりで食事に行きました。『宮田さん、痩せましたね』と言われて不覚にも涙ぐんでしまった。恥ずかしかったけど、なぜか彼女には素の自分を素直に見せることができたんです。ああ、オレは泣きたかったんだと初めてわかりました」

 店を出ると、茉利奈さんは「うちで飲み直しませんか」と言った。潤さんがともするとすぐに涙ぐむのを案じて言ってくれたのだ。ありがたかった。自分の悲しみに埋没していた彼は、その誘いを受けてしまう。

「部屋に入ると茉利奈ちゃんが抱きしめてくれて。自分が母親に抱かれているような安心感がありました。もう、頭がこんがらがってそこからのことはほとんど記憶にないんですが」

 潤さんはそう言ってごまかした。だが、柔らかく抱きしめられたとき、母への思慕が高じたのは確かだろう。

「料理教室に通う」と家族に告げ

 だが現実は「不倫」である。どんなに優しさに満ちたきっかけでも、始まってしまえば「ただの不倫」として見られるのだ、世間的には。そしてそういうことをわかっていながらやめられないのもまた恋である。

「定期的に会うようになってから、茉利奈ちゃんはことあるごとに『私は宮田さんに家庭があるのはわかっていますから』『憧れの奈美絵さんに申し訳ない』と言うようになりました。そういうことは言わないでおこう、ふたりだけの関係を大事にしたいと僕は言っていたんですが、彼女はやはり思うところがあったようです」

 だが数ヶ月たつうちに茉利奈さんも落ち着いていった。潤さんは「学生時代の友人に誘われたので、毎週土曜日に料理教室に行ってみる」と家族に告げた。教室に申し込んだのは本当だが、友人に誘われたというのは嘘だった。実は月に2回なのだが、毎週だと嘘を重ねた。どうしても茉利奈さんに会う時間がほしかった。

「娘が喜んでいましたね。妻に『毎週、作ったものを持って帰ってきてよ。楽しみにしてるから』と言われてぎくりとしました。毎週は持って帰れない。でも適当にごまかそう、なんとかなると見切り発車しました」

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