妻と不倫相手、2人に刺された男の告白 「あと10年くらいたったら結局残るのは…」

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夏にはじまった関係

 そこから彼女との距離が縮まった。とはいえ、「浮気願望は本当になかった」と秀夫さんは真顔で言った。ただ、妻の目を盗み、仕事にかこつけてスナックに通うのが彼の唯一の息抜きだったのだ。もちろん、家庭をないがしろにしたつもりもない。

「子どもたちもある程度大きくなって、友だちが増えていく。妻もパートに出て世界が少し広がっていった。なんだか変わってないのは自分だけだと思っていたんです。留美に会って、自分が必要とされる感覚を取り戻せたような気がした。いや、もちろん千里や子どもたちと関係が悪化したわけじゃなかったし、家族に必要とされているのも事実なんだけど……。家族は基盤だから、それとは違う新鮮さが留美にあったのかもしれません。惹かれる心理って自分でもよくわからないけど」

 そんな留美さんと男女の仲になったのは昨年の夏だ。コロナ禍でスナックも時短だったり休業だったりを繰り返している日々、夜、ふらりと行ってみると休業の貼り紙が出ていた。だが店内にはうっすらと明かりがともっている。小さくノックしてみると、中から留美さんが顔を覗かせた。

「僕を見ると、ぱっと表情を輝かせて『来てくれたんですね。ひとりで寂しかったんですよ』と抱きついてきそうな勢いで。なんでもママが腰を痛めて動けなくなっているので、コロナ禍もあって店はしばらく休むとのことでした。『営業はしていないけど、少し飲んでいきませんか』と言われて、いつもは座らないソファ席に。店内は薄暗くて、外も暗くて、彼女がかけたジャズの音が低く流れて……。隣に留美が座って、ふたりでしみじみ飲んでいたら、まあ、雰囲気だけでもヤバいっすよね(笑)。あの状況で好きな女性にしなだれかかってこられたら、どうにもならない」

 その日からふたりの関係が始まった。だが3ヶ月もしないうちに留美さんの表情が沈むことが多くなる。

「リモートワークなのに出社だと妻には偽って留美のアパートに行ったりもしていました。だけど帰り際、留美はいつも黙って涙を流す。帰りづらいし、せつないし。『留美がつらいなら、オレとはつきあわないほうがいい』と言うしかなかった。すると彼女は『私をこんなに好きにさせておいて、ひどい』って、ますます泣くんです。惚気てるわけじゃないですよ、本当に僕も苦しかった。『下の子がもう少し大きくなるまで待ってほしい』としか言えなかった。その場しのぎの言い訳です。でも『大きくなるまでっていつまでよ』と言われて……」

「自分で刺しました」

 既婚だとわかっていても、つきあっているうちにどんどん独占したくなっていくのはよくある話。だから秀夫さんは留美さんを責めることはできなかったし、家族のいない彼女に冷たくすることもできなかった。

「あるとき留美が『今日は私の誕生日なの。せめて今日だけは泊まっていって』と言い出して。それだけはできない。きみが寝るまで見ているからと言ったところから喧嘩になって……。彼女が顔面蒼白になって『こんなに好きなのに、どうして』と言うなり、僕の太ももにナイフを突き立てたんですよ。次の瞬間、彼女自身があわてふためいて、『ひゃっ』と喉の奥のほうから声が出て、ナイフを抜こうとしたので、抜くなと。あとで連絡するからと言って、そのまま外へ出ました。その日、僕は車で彼女のところに行っていたので、自分で運転して近くの救急病院へ行きました」

 3センチ近く刃が刺さっていたが、幸い、神経を切断するような大事にはなっていなかった。だが医師は「警察に連絡したほうがいい」と言う。秀夫さんは慌てた。

「自分でうっかり刺しちゃっただけなんですと必死で言いましたが、『それはあり得ないでしょう』と冷静に突き放されて(笑)。とにかく大丈夫です、自分でやったんですと言い張って、最後はほとんど喧嘩腰になってしまいました。『あなたは見てないでしょう。ひとりで家にいて自分でしてしまった怪我で、何のために通報しなければならないのか。通報したらむしろ個人情報漏洩ですよ』と……縫ってもらった後は、逃げるようにして帰宅しました。途中で留美に電話して『大丈夫だから、とにかく明日、また連絡する』と言ったら、彼女はごめんなさいと泣いていましたね」

 妻にはどう言えばいいのか。自宅の駐車場で車を止め、彼は必死で考えた。足の傷がジンジンと痛む。

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