競輪、酒、ドヤ街、そして歌…フォーク・シンガー「友川カズキ」が語る川崎の姿

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「変わった歌だなあ」

 日進町の赤ちょうちんで、今夜も彼はへべれけになっている。カウンターで、なぜかドトールの皿に盛られたホルモン炒(いた)めをつまみつつ、カラオケに入っていた友川の楽曲「生きてるって言ってみろ」を、本人が歌うのを聴いた。

 ビッショリ汚れた手拭(てぬぐ)いを
 腰にゆわえてトボトボと
 死人でもあるまいに
 自分の家の前で立ち止まり
 覚悟を決めてドアを押す
 地獄でもあるまいに
 生きてるって言ってみろ
 生きてるって言ってみろ
 生きてるって言ってみろ

 怒鳴りつけるように歌い終わってマイクを置くと、呆気(あっけ)に取られていた隣の老人がつぶやいた。

「変わった歌だなぁ」

「歌でも歌ってないとやってられないですよ!」

 友川はもう何杯目かわからない焼酎の水割りをぐいっと飲み干す。

「……そういえば、ボブ・ディランがノーベル文学賞を取りましたね」

「どうも思わない。私がディランみたいにプール付きの豪邸に住んだら歌なんて歌わないよ」

「では、友川さんはあの家に住んでいるからこそ歌っている?」

「はっきり言いますけどね……歌でも歌ってないとやってられないですよ!」

 またいたずらっぽく笑う。

 自由は尊いが、同時に過酷だ。ありとあらゆるしがらみを振りほどくかのごとく叫ぶ友川の歌は、自由の街、川崎によく似合う。

2021年7月10日掲載

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