競輪、酒、ドヤ街、そして歌…フォーク・シンガー「友川カズキ」が語る川崎の姿

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土方殺すに刃物はいらない。雨の3日も降ればいい

 友川もまた、高齢ということもあって土方の仕事から遠ざかった後、日進町にある自立支援センターに勤務していたという。

「このへんの旅館の相場は1泊1500円か2千円。だって、土方は1日働いて8千円だし、雨が降ったら休みだから、それぐらいしか払えない。こういう言葉知ってます? 『土方殺すに刃物はいらない。雨の3日も降ればいい』って」

 彼は勝手知ったる様子で暗い路地を進んでいく。

「ただ、自分で泊まれる人はまだいいほうでね。私がやってたのは、市の援助を受けて、外で寝てる人を旅館に振り分けたり、センターで引き取ったりする仕事だった。さらに、“自立支援”なんていうけど、自立するなんて、到底、無理な人もいっぱいいる。統合失調症の人、覚醒剤中毒の人、末期がんの人、もうろくしてる人。ウンコだらけのお尻(しり)をシャワーで洗ってあげたりしましたよ」

 一方、川崎市民からは、「駅周辺がきれいになった」「以前と比べてホームレスが減った」という意見を聞く。それは、市や自立支援センターによる成果なのだろうか。

「そんなことないの。(多摩川の)河川敷に行ってごらんなさい。今日なんか暖かいし、たくさんいるはずだよ。川崎だけでホームレスが3千人いるっていうんだから。昔は川崎全体が日進町みたいなものだったのに、だんだんと彼らは街にいさせてもらえなくなって、隅に追いやられてるだけなの」

 彼が働いていた自立支援センターの前に着くと、ガラス戸の向こうに、弁当を受け取っている老人の姿が見えた。友川はつぶやいた。

「でも、ここが窮屈で飛び出しちゃう人もいる。飲酒が禁止されてるし、『体が動くうちは外のほうがいい』と言って。そして、空き缶集めをやる。ベテランでも、1日働いてせいぜい2千円。それでも十分なんだね。上がりでカップ酒飲んでタバコ吸って、『また明日も頑張ろう』って。私だって、人と折り合うのは苦手だし、歌がなかったらそういう生活をしてただろうね」

「いつの間にか自分の家になった」

 もちろん、フォーク・シンガーとしての友川の評価は高い。その先鋭的なサウンドは下の世代からオルタナティヴ・ミュージックとしても聴かれているし、フランスの映像作家、ヴィンセント・ムーンが彼を追ったドキュメンタリー映画「花々の過失」(09年)の影響もあって、海外でライヴをする機会も増えている。

「今年はウクライナとドイツに行った。でも、外国は言葉が通じないから疲れるね。まぁ、日本の地方でも気を遣(つか)うし、川崎の部屋に帰ってくるとホッとしますよ。もともとは、家賃が安かったから越してきただけ、ほかに移るのが面倒くさいからいるだけの場所なのに、いつの間にか自分の家になったんだね」

 友川にとっても川崎は終の住処なのだろうか。

「年取ったって、秋田には戻りませんよ。ただ、外国で死ぬのは嫌だなぁ。だって、遺体を引き取りに行ったり、人に迷惑かけちゃうでしょう。そうすると、やっぱり川崎で死ぬのがいいのか」

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