医師が明かす「コロナを恐れる必要がない理由」 死亡者は前年比減少、治療法も大きく進歩

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 今年の春以来、メディアを通して最も耳にし、同時に目にする機会が多かった語の一つが「感染者」または「感染者数」であったことは、疑う余地がない。テレビのニュースやワイドショーはもとより、新聞を開けばこれらの文字が躍る。

 しばらく勢いが落ちていたが、気温が下がるにつれ息を吹き返している。ここ数日も「日本も徐々に新規感染者数が増加に転じており」「1日あたりの感染者が3日連続で千人を超え」といった文言が、耳にし、目にする人に恐怖感を抱かせている。

 たしかに、数百人程度で落ち着いていた全国の新型コロナウイルスの新規感染者数が、11月7日には1323人を数えた。また、北海道では9日、1日の感染者数が初めて200人を超えるなど、数字が膨らみつつあるのは間違いない。

 また、一足先に寒くなった北海道で感染者が急増していると聞けば、気になるのは比較的緯度が高い欧米である。アメリカは11月6日の新規感染者数が13万2797人を数え、日本の感染者数の累計、11万9555人(11月17日現在)を、わずか1日で大きく上回る勢いだ。

 さらに深刻な様相なのがヨーロッパで、人口6706万人と日本の半分にすぎないフランスでは、11月7日に1日の感染者数が8万6852人に達し、周辺諸国でも、イタリアで7日に過去最多の感染者数3万9809人を記録したのをはじめ、多くの国で万単位の新規感染者が毎日発生している。その結果、各国が外出制限などの厳しい措置を講じるにいたった。

 その映像とともに、日本の何十倍にも相当するヨーロッパの感染者数が日々報じられれば、それを明日はわが身と思う人が増えるのも、不思議ではない。

 しかし、そもそも「感染者数」にそれほど神経質になる必要があるのだろうか。留意すべきは死者数のはずだが、11月になってからの死者数は、1日から9日まで1日平均7人である。

 たとえば昨年1月、インフルエンザによる死者数は1日平均54人で、すでに罹患している慢性疾患がインフルエンザによって悪化しての死亡を含めれば、100人の大台を楽に超えた可能性が高い。つまり新型コロナによる死者数がいまの10倍に増えたとしても、それはある意味、例年経験している事態なのだ。

 そのことを念頭に置いたうえで、日々感染者の治療に当たっている臨床医の話に耳を傾けてほしい。

 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、

「いま増加傾向にある新型コロナウイルスの感染者数は、今後さらに増える可能性があるでしょう」

 と言い、その要因を、

「低温になると新型コロナウイルスの生存期間が長くなります。また、空気が乾燥すると水分が失われて飛沫が軽くなり、ウイルスが遠くまで届くようになります。こうしてウイルスにとって好条件になるのに加え、寒い時期には人々は換気をしなくなりがちで、暖かい部屋やお店に集まる。寒くなると、一般に人間の抵抗力が落ち、ウイルスを排除する能力が低下する、ということも指摘できます」

 と説明する。では、ここしばらくの状況は、どう見ていたのだろうか。

治療薬を早めに使えるように

「9月から10月は、1日の新規感染者数は全国で500~800人程度。微増と微減を繰り返し、一定数を超えて増加することも、減ることもなかった」

 増加要因と減少要因が拮抗していたわけだ。

「その時期、感染者が増える要因としては、大学が再開して部活動や寮でクラスターが発生したことのほか、Go Toトラベルの開始や、イベントへの参加人数の緩和があった。人が移動したり集まったりする機会が増えたことは、増加要因になったと思います。一方マスクや手洗いを徹底して、大人数で集まって大声で騒ぐことは避けるなど、一人ひとりが対策をしたことで、感染がそれ以上増えなかったのでしょう。検査の拡充も挙げられます。クラスターが発生しても、短期間に感染者の周囲を検査することが可能になった。高齢者施設や医療機関でも、感染者が一人出たら、大勢に広がる前に検査をして対処できるようになりました」

 こうして感染者の大幅な増加を免れることができていたわけだ。ただし、

「増加要因と減少要因のバランスは、個人個人の“そろそろ出かけたい”という気持ちと“感染に気をつけなければいけない”との意思という、自主性に依存しているだけに、崩れやすいと思います」

 そうは言いながらも、

「感染者数の増加スピードも、感染者そのものの数も、ヨーロッパほどになる可能性は低いと思います」

 というのが寺嶋教授の見解である。理由は、

「7~8月の第2波の分析で、感染者数が増加すると人々の外出回数が減るという傾向が判明しました。こうした個人の自主的な行動変容の傾向が持続するなら、感染者数が増加傾向にあっても、ヨーロッパのようにはならないと思う」

 しかし、日本の感染者数が欧米とはけた違いで少ない原因を、個人の行動だけで語れるのかどうか。それについては追って考えることとし、医療現場の現況についての話を聞こう。

「欧米でも日本でも、第1波とくらべれば重症化率も死亡率も低下している。要因の一つは、検査体制が拡充されて早期発見、治療ができるようになったことです。第1波では発熱しても4日間待つ必要がありました。そのために診断や入院時にはすでに重症だったというケースもありましたが、最近はそういうことは少ない。特に高齢者や重症化リスクが高い糖尿病患者は、早く入院させます」

 要因の二つ目は、

「治療経験が豊富になり、治療薬も早めに使えるようになったことです。重症化リスクが高い症例には、抗ウイルス薬のアビガンを早めに投与します。やはりこの薬は、体内でウイルスが増えるのを抑制し、症状を軽減して陰性になるまでの日数を短縮できている。酸素吸入が必要な中等度になると、ステロイドホルモンのデキサメタゾンを早めに投与します。新型コロナウイルスは、ウイルスの増殖を防ぐ働きをするサイトカインが正常な細胞も傷つけてしまうサイトカインストーム、つまり免疫暴走を起こす場合があります。その結果、肺や腎臓に機能障害を来たすことがあり、デキサメタゾンはそれを抑える働きが期待されます。英国で行われた臨床試験で、酸素吸入や人工呼吸が必要な患者は、デキサメタゾンを使って死亡率が低下したというデータが出ているのです。さらに、人工呼吸器が必要となりそうな段階では、抗ウイルス薬のレムデシビルを投与します」

次ページ:人工呼吸器にまでいかない

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。