朝鮮半島は「2017年」に戻った 米朝の駆け引きの行きつく先は「米韓同盟消滅」

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年6月26日掲載

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 北朝鮮が軍事行動を匂わせた。その途端、米国は核兵器が搭載可能な爆撃機を日本海に送った。すると北朝鮮は軍事行動を保留した――。2017年当時を思わせる米朝の駆け引きが再び始まった。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。

B52も、空母も、強襲揚陸艦も

鈴置:6月16日、北朝鮮が開城(ケソン)工業団地にある南北共同連絡事務所を爆破しました。翌日、米国はB52戦略爆撃機を日本海に送りました。B52は核搭載が可能で、北朝鮮への露骨な圧迫です。

 米太平洋空軍の発表によると、6月17日に日本海上で2機のB52が航空自衛隊機及び、米海軍機と合同演習を実施しました。

 航空自衛隊の4機のF2と12機のF15がB52を広範囲にわたってエスコートしたほか、日米は迎撃訓練を実施しました。関係者によると自衛隊機は2機あるいは4機ずつ、リレー方式で護衛にあたったようです。米海軍からは電子戦機のEA18G(複数)が参加しました。

 6月22日には米国のインド太平洋司令部がフィリピン海域で2隻の空母が演習中と発表しました。

 セオドア・ルーズベルトとニミッツで、横須賀を母港とするロナルド・レーガンと合わせ、3隻が西太平洋に集結したことになります。もちろん、北朝鮮を威嚇するためです。

 なお、発表は6月22日でしたが、6月中旬には日本の専門家の間でも「空母3隻体制」は知れ渡っていました。「爆破」以前から米国はそれを見越して準備していたのです。

 同じころ西太平洋で、米海兵隊の水陸両用部隊が北朝鮮を念頭に演習に入った模様です。戦闘攻撃機F35を搭載する強襲揚陸艦1隻と、ホバークラフトを積むドック型揚陸艦2隻で構成する両用即応グループ(ARG)です。

 空母を中心とする打撃グループもARGも、海上自衛隊の護衛艦群が一緒に行動していると見られます。B52と航空自衛隊の合同演習と合わせ、米日は手を組んで徹底的に北朝鮮を牽制したのです。

空爆で金正恩暗殺を狙う

――北朝鮮に米国の意図は伝わったでしょうか。

鈴置:もちろん、伝わっています。ブルックス(Vincent Brooks)前・在韓米軍司令官が6月17日、戦略国際問題研究所(CSIS)のオンラインセミナーで以下のように語って、演習の意図を明確に説明しています。開始7分32秒後からです。

・軍事的手段を動員し北朝鮮への圧迫を強化すべきだ。核兵器を投下できる爆撃機、F35、空母と原子力潜水艦が展開する姿を見せつけるのだ。

 6月23日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は朝鮮労働党中央軍事委員会の予備会議を主宰しました。北朝鮮メディア「わが民族同士」(6月24日、日本語版)は「軍事委員会は最近の情勢を評価して朝鮮人民軍総参謀部が党中央軍事委員会第7期第5回会議に提起した対南軍事行動計画を保留した」と報じました。

 行動計画とは連絡事務所の爆破に次ぐ措置で、(1)開城や金剛山に軍部隊を展開、(2)非武装地帯に監視所を再び設置、(3)陸と海の軍事境界線で部隊を増強し軍事訓練を再開、(4)前線の一部を開放し人民の「ビラ散布闘争」を保障――の4つ。要は、韓国に対する軍事的な脅しでした。

 北朝鮮は爆破から1週間後にそれらを棚上げし、とりあえずは矛を収めて見せたのです。米国の威嚇――ことに空軍演習による威嚇は実によく効きます。

 2017年秋に北朝鮮が核・ミサイル実験を中止し、翌年6月に初の米朝首脳会談に応じたのも米軍の「空からの脅し」によるものでした。米軍は金正恩委員長を空爆で暗殺する計画を持ちます。いくら演習とはいえ、ご本人は生きた心地もしなかったでしょう。

韓国こそが「蚊帳の外」

――攻撃されたら、北朝鮮は韓国や日本に対し核報復しませんか?

鈴置:その可能性が高い。だから米軍は暗殺と同時に北の核基地も攻撃します。徹底的に基地を潰すために、戦術核も使うと専門家は見ます。それもあって、ブルックス前司令官は「核による威嚇」を強調したのでしょう。

――朝鮮半島で今、起きていることは「南北」ではなく「米朝」の争いなのですね。

鈴置:その通りです。ボルトン(John Bolton)前米大統領補佐官が回顧録『The Room Where It Happened』で明かしたように、半島を巡る外交ゲームは基本的には米国と北朝鮮の闘いなのです。韓国も主要プレーヤーであるかのごとくに見えますが、文在寅(ムン・ジェイン)政権がそう装っているに過ぎません。

 ことに日本では、「文在寅は安倍よりも外交が上手い」「安倍のせいで日本は蚊帳の外だ」といった、韓国政府の宣伝を鵜呑みにした言説がテレビやネットで出回って「韓国主役説」が広がりました。本当は韓国は「蚊帳の外」、せいぜい、「脇役」なのです。

 今回も韓国が、北向けのビラを禁止するといくら約束しても北朝鮮は姿勢を硬化させるばかりでした。というのに米軍が脅したら即、すごすごと引き下がった。これが何よりの証拠です。北朝鮮が怖いのは米国であって韓国ではないのです。

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