「防疫で世界を先導」と胸を張る文在寅、「反面教師に」と冷ややかな安倍晋三

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韓国政府は信頼されている?

――「検査大国」は神話だったのですね。ただ、政府が信頼されているので「社会的距離」が容易に実現した、と誇る韓国人もいます。

鈴置:興味深いデータ・ベースがあります。「Apple map」の経路検索データを基に、国・地域別に人々の移動の動向を数値化して公開するサイトです。

 日ごとの移動の動向が、新型肺炎が大流行する前の1月13日と比べた割合「%」で示されます。これを見ると、韓国は日本よりも2か月以上も早く、人出が急減したことが分かります。

 日本の人出――「徒歩」の移動動向が完全に100%を割り込んだのは4月4日(82・85%)。3月28日に安倍首相が「3密」――「社会的距離の維持」を国民に求めた後のことでした。

 一方、韓国の人出は2段階で減りました。完全に100%を割ったのは2月1日(87・13%)。その後はバレンタインデーの2月14日(94・45)を除き、60-80%台が続きました。これが1段階目の減少です。

 2段階目に突入したのは2月23日。57・99%と初めて50%台に落ち込み、4月29日まで30―50%台を推移しました。2月23日に文在寅大統領が、警戒レベルを最大の「深刻」に引き上げたと表明したので、その影響でしょう。

 注目すべきは、1段階目の外出減少が「深刻レベルへの引き上げ」の3週間以上も前の2月1日から始まっていたことです。当時、文在寅大統領は国民に警告するどころか、すぐにも新型肺炎が収まるとの見通しを語っていました。2月13日のことです。

 2月1日現在、大邱の感染爆発は起きておらず、1人の死者も出ていなかった。その頃の新型肺炎のニュースといえば、1月30日に武漢への滞在歴のない韓国人の感染が初めて確認され、1月31日に中国から368人が特別機で帰国して隔離施設に入ったことぐらい。

 それでも、これらのニュースに接した韓国人は自発的に外出を控え、わが身を護ったのです。

「韓国すごいぞ!」のまやかし

――日本人は政府に指示されて外出を控えた。韓国人は指示前から外出を控えていた……。

鈴置:そこです。このデータから「韓国人は政府を信頼する」と見なすのには無理があります。むしろ「政府を信用しない」からこそ個人として自己防衛に走り「3密」を避けたと見た方が合理的です。

 37人が死亡した2015年の「MERS」(中東呼吸器症候群)の流行が韓国人のトラウマになっています。日本の国立感染症研究所が発表した数字です。当時、彼らは政府の無能ぶりに憤りました。

「ラクダの肉は食べるな」といった現実離れした指示を繰り返したあげく、感染拡大を許した。そもそも、中東以外で流行したのは世界で韓国だけだったのです。

 今年1月末、韓国政府が新型肺炎用の隔離施設を作ろうとした際、周辺住民が暴動を起こしました。説得のため現地入りした政府高官は暴行されました。韓国人の政府不信が噴出したのです。

 暴動の光景は「韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は『文在寅政権の無能、無策』と総攻撃」で見ることができます。

 こうした事実を並べると、「政府の優れた防疫対策を信頼し、一致団結して協力した国民」という、韓国人の美しい自画像には首をかしげざるを得ません。

 韓国人は「世界でもっとも優秀な民族」という評価を異様に欲しがります。今回の新型肺炎騒ぎでも、神話作りに精を出したのです。

 文在寅大統領のように臆面もなく「韓国すごいぞ!」と語る韓国人が多いので、つい日本人は信じてしまうのですが、真に受けてはなりません。判断を誤ります。

「大邱の失敗に学ぶ」と答弁した安倍首相は十二分に分かっていると思われます。でも、ろくに調べもせずに、テレビや新聞で「韓国のようにPCR検査を増やせば問題は解決する」と主張する人が跡を絶ちません。

 本当のことを見極める必要があります。人の「生き死に」がかっているのですから。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月11日掲載

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