「防疫で世界を先導」と胸を張る文在寅、「反面教師に」と冷ややかな安倍晋三

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全国民を検査するのに7・8年

――とは言え、韓国の検査能力が高い点は評価すべきでは?

鈴置:それも誤解です。韓国の検査能力は世間が思うほどは高くありません。中央防疫対策本部の4月13日の発表によると、4月12日午前0時までに実施したPCR検査数は51万4621件。韓国の総人口、5160万人(2018年推計)の1%弱です。

 5月上旬は入国者中心に1日2000―6000件台の検査数で推移しています。5月10日までの1日の最高実績は3月5日(3月6日発表)の1万8199件。このペースでも、韓国人全員を検査するのに7・8年かかります。

 検査キットは量産できても、検体を採ったり輸送したり、判定する人の数にはおのずから上限があるのです。

 1日あたりの感染者数のピークは2月29日の813人。中央防疫対策本部の同日(16時基準)の発表によると、この日の検査数は1万2888件でした。

 一方、判定に至っていない「検査中」の検体が3万5182件。採取した検体が急増したため、処理が追い付かず「仕掛品」が膨らんでいたことがよく分かります。

「長期化」に備え医療陣を休ませよ

――でも、韓国は日本と比べ累積検査数が多い。

鈴置:先ほども申し上げたように「大邱の失敗」と「政争」が原因で検査数が不正常に伸びたのです。

 そもそも、累積の検査数が多いのは感染者数が多いか、無駄な検査をしていることの証(あかし)です。「多いぞ」と数字を誇る韓国人もお笑いですし、それを褒め称える日本人もピンボケです。

 実は、韓国でも「余計な検査」を減らそうとの声が高まっています。検査に携わる人が疲労困憊したからです。4月29日、朝鮮日報は「陽性率が0・17%に急降下」(韓国語版)です。

 4月20―26日の1週間に検査した人のうち、感染者と判定された人の割合――陽性率は0・17%。累積ベースで見ても韓国は1・8%で、日本(8・9%)、英国(28・1%)、イタリア(16・3%)と比べ極端に低い。

 地域別でも、大邱(7・3%)、慶尚北道(2・6%)以外の地域はすべて1%未満(データを公表していない京畿道を除く)。要は打率――検査効率が低いのです。以上のデータから、この記事は次のように主張しました。

・感染症の専門家の間では「国内最悪の拡散を防いだ一番の功績は大がかりな検査にあるが、医療陣の疲労蓄積も深刻な水準だ」との指摘が出ている。
・感染者が再び増える前だけでも検査対象を減らすことで、新型肺炎の検査所の運営負担を減らし、医療陣が「コロナ長期化」に備えることができるようにしようとの意味だ。

密かに検査を絞り込む韓国

 韓国政府も静かに検査の絞り込みに動いています。それが表面化したのは中央日報が「総選挙目前に魔法のように急減…『コロナ検査縮小』疑惑の真実は」(4月13日、韓国語版)を載せたのがきっかけでした。

 筆者はチャン・セジョン論説委員。まず、4月15日の総選挙を前に新規感染者数が急速に減っているが、検査数を減らしたためではないか、と指摘。

 さらに、検査数が減ったのは「3月2日以降、政府がPCR検査のガイドラインに『原因不明の肺炎などが疑われる者』との要件を追加したため、問診に加えCT検査なども必要になったと医師が考えたからだ」と批判しました。

 これに対し、中央防疫対策本部は同日のブリーフで「検査数が減ったのは集団的な発症が減ったからだ」と反論。「要件の追加は例を示しただけであり、依然として検査は医師の判断で可能である」と弁明しました。

 すると、チャン・セジョン論説委員は直ちに再反論。同じ記事に「医師が改正ガイドラインのために検査実施に負担を感じているのは事実だ」と書き加えました。

 CT検査などで新型肺炎の可能性が高い患者を絞り込んでからPCR検査を実施する、というのが日本のやり方。韓国の手法もそれに似てきたのです。逆に日本は「PCR検査を受けやすくしろ」との批判に押され、ハードルを少しずつ低くしているのですが。

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