「防疫で世界を先導」と胸を張る文在寅、「反面教師に」と冷ややかな安倍晋三

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クラスターを見落とし、あわてて大量検査

――日本でも医師・看護師が新型肺炎に感染し、閉鎖する病院が相次ぎます。

鈴置:その際は患者をほかの病院に移しますが、大邱のように、同時に多数の病院の機能が落ちると移す先がなくなり、重症者まで自宅に待機させることになってしまうのです。安倍首相が大邱を他山の石としたいと発言したのも当然です。

――でも、韓国には見習うべきところもありませんか?検査体制の充実とか……。

鈴置:韓国のPCR検査体制は素晴らしい――というのは神話です。「積極的に大量検査し、感染者を発見した」と日本でも称賛されていますが、大いなる誤解です。

「感染の疑いのある人が大量に発生したので、大量に検査せざるを得なかった」というのが実態です。巨大なクラスター(感染者の集団)の出現を許したツケを払わされたのです。

 巨大クラスターの母体となったのは、信者数が約21万人の新天地イエス教会というキリスト教系の新興宗教。2000人が集まった大邱の祈祷集会が発生源でした。

 この2000人は全員を検査しました。大邱の集会に参加しなくとも幼稚園、病院などで働く全国の信者はすべて検査対象に。多くの地方自治体が、地元の信者はすべて調査。症状のある人にはもちろん検査しました。

今、大邱は本当に地獄です

――死に物狂いで検査したわけですね。

鈴置:そうです。しかし新天地対策に注力するあまり、信者以外の患者は見捨てられました。

 韓国では青瓦台(大統領府)にネットで請願する仕組みがあります。2月下旬以降、大邱の市民からの「助けてくれ」との請願が殺到しました。そのひとつが「大邱市民です 今は怒り、悲しみ、苦しんでいます」(請願開始日=3月2日)です。

 熱と咳があり、そして糖尿と血圧の持病があっても「新天地と関係なく、海外旅行にもいっていないから」と保健所から検査を拒否され、自宅待機を余儀なくされた男性が怒りをぶつけています。

 熱が39度になった後、ようやく検査を受けることがでました。陽性が判明したのですが、それでも自宅での療養を申し渡されました。病床が絶対的に不足していたのです。

 この請願は麗澤大学・西岡力教授が国家基本問題研究所のサイト「国基研ろんだん」の「【韓国情勢】誤認されている韓国のコロナ検査の実態」で日本語に全訳しています。

「今、大邱は本当に地獄です」「マスク一つ満足に買えない中、大邱地域住民は困難のなか耐えているということを大韓民国国民にお伝えします」という言葉で結ばれています。

「新天地」に偏重した検査

――検査は「新天地」偏重だったのですね。

鈴置:その通りです。国民からの批判を受け、政府も姿勢を変えました。文在寅政権と近い、左派系紙のハンギョレが背景を解説しています。「韓国保健当局、検診の優先順位を大邱新天地から高リスク群の市民に変更」(3月4日、日本語版)です。

・韓国政府が、新天地大邱教会ではなく高リスク群の大邱市民たちに対して新型コロナウイルス感染症の診断検査を優先的に実施する方針を決めた。
・症状もない、若くて健康な信者まで全数調査の対象にし、基礎疾患を有する高リスク群患者に対する検査が後回しになっているという指摘を反映したものだ。
・3日、中央防疫対策本部が致死率を分析した資料(午後2時基準)によると、全体平均は0・6%だが、70代は4・0%、80歳以上は5・4%で、高齢者の致死率がはるかに高い。

「高リスク群」とは病院機能を伴う高齢者の介護施設「療養病院」を指します。政府の方針変更の下、大邱では療養病院の関係者も全数検査に踏み切りました。

 検査の結果、3万2413人中、0・7%に相当する224人が陽性だったと中央防疫対策本部が3月24日のブリーフで発表しています。

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