進次郎議員に「2年育休」呟きのモラハラ(古市憲寿)

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 小泉進次郎議員の育児休暇取得が話題になっている。世界では当たり前でも、日本にとっては新しい出来事。だから賛否はあってもいいと思うが、こんな興味深いツイートを見つけた。

 普段は男女平等の重要性を訴える研究者が、小泉議員の育休取得のニュースに対して「この人には2年くらいとってもらったほうがいいのでは」とつぶやいていたのだ。以前から小泉議員の活動に批判的な研究者なので、「2年休んだほうが社会のためになる」といった嫌味なのだろう。

 しかし同じことを一般企業で育休を取得しようとしている若者に言ったら立派なハラスメントである。仮にその若者がどんなに仕事ができない人だったとしても、そのことと育休の長さはまるで関係がない。

「政治家は別」という意見があるが、政治家だからといって子どもと触れあう権利や、職に復帰する権利を奪われる筋合いはない。育休の長さくらい自分で決めればいい。

 もしも、その研究者が常日頃から男女平等に批判的で、男は育休など取得せずに働き続けるべきだという考えの持ち主ならば、思想としての辻褄は合う。しかし普段は、労働時間の削減や、万人が働きやすい環境の整備を訴えているのだ。

 最近、似たような現象を目撃する機会が多い。その元凶は「安倍政権」である。

 言論の世界には、「何が何でも安倍政権や自民党を擁護したい集団」と「批判したい集団」がいる。彼らが不幸なのは、安倍政権の政策に一貫性がないために、その批判もちぐはぐになってしまうことだ。

 たとえば政権の改憲に対する意欲、同性婚や選択的夫婦別姓への消極的な態度は従来の「保守」と重なる。一方で、働き方改革や幼保無償化などへの取り組みは「リベラル」な政党が主張してきたことでもあった。

 さらに自民党全体に視野を広げれば、「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」まである。育休義務化といえば、「リベラル」な人々が模範とする北欧で実施されている先駆的な政策だ。

 かねてから自民党は大衆政党であった。票になると思えば、あっさりと軸足を移してきた。今後、世論が盛り上がれば、同性婚や夫婦別姓に対しても肯定的になっていくのだろう。

 つまり安倍政権や自民党に対する賛美や批判を至上命令としていると、言論に一貫性がなくなるのは当然なのだ。もちろん、それも一つのあり方。どれほど合理的で科学的に見える意見であっても、その裏側に直感的な好き嫌いが隠れていることは珍しくない。

 ちなみに冒頭の研究者のハラスメント発言だが、「2年くらい」ではなく「半年」と書かれていたら、僕も納得していたと思う。子どもが1歳になったら保育園に預けるとして、それまで半年ずつ育休を取得することは、双方のキャリア戦略を考えても合理的だからだ。育休批判の根っこには他者に対する過剰な厳しさがある。その厳しさはやがて、自分自身の首まで絞めてしまうと思うのだけれども。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2020年2月6日号掲載

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