「3歳から無償教育」小泉進次郎氏が注目する「フランス式保育」の作り方

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「本当にこれなんです」

「この本、面白かった。書いてあるのはフランスの事例だけど、僕がこの本で一番という部分、読みますよ」

 そう言って、小泉進次郎(36)氏は『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)のページをめくり、自身で赤線を引いた箇所を読みあげた。小泉氏が主宰する勉強会でのことだ。

「フランスの保育学校から得られる一番の示唆は、『初めは個人の熱意だった』ということではないか、と私は思っています。社会を変えることを諦めず、一人が仲間を募り、熱意を集めて形にすれば、いつかはそれが『国の保障する権利』にまで成長する」

 そして力を込める。

「本当にこれなんです。まずは個人の熱意。それから仲間を増やして、いつか国の制度を動かすものにするっていう。これなんです」

 それを聞いていたのは同書の著者でフランス在住のライター・高崎順子氏と3人の若手国会議員。村井英樹氏(37)、小林史明氏(34)、山下雄平氏(38)は小泉氏とともに「こども保険」の提言をまとめた“実行部隊”だ。

「こども保険」は年金と同様の「社会保険方式」で集めた財源を、現金もしくはバウチャーで給付をすることで、子育て世帯の経済的、時間的、精神的余裕をつくり、少子化に歯止めをかけることを目的とした政策。仮に0.5%の保険料率とすれば、0~5歳の子ども1人当たり月2.5万円分の給付が可能になる。

「社会全体で子供を育てる」ことを理念に掲げ、将来世代に負担を先送りしないかたちで安定的な財源を得たいという。

 その財源を、どのように子供たちに使っていくのか。毎週のように顔を合わせる4議員はこの日、高崎氏を招いてフランスの子供たちが通う保育学校について聞き取った。

 保育学校とは、保育園とどう違うのか。現地ではどのように受け止められ、どんなメリットがあるのか。同書を参考に見てみよう。(以下、引用は『フランスはどう少子化を克服したか』より)

3歳から国が面倒を見てくれる

 フランスでは毎年9月、その年に満3歳を迎える子供が一斉に、「保育学校」に入学することになっている。保育学校は、週4日半、3年生の学校で、フランス国内のすべての子供が入学できることになっている。日本の文部科学省に相当する国家教育省の管轄で、義務教育ではないものの教育費は無料。2015年時点の入学率はほぼ100%となっているという。

 高崎氏はフランス人サラリーマンの夫と共稼ぎで、パリ郊外でライターを生業としている。子供が幼かった頃の心境を高崎氏はこう振り返る。

「フリーランスとはいえフルタイム勤務なので、長男・次男はそれぞれ1歳から保育園に預けてきました。保育園の定員不足はフランス、特に人口の集中している首都パリ圏でも問題となっており、預け場所の確保や送り迎えの段取り、保育料の捻出には頭をひねってきましたが、『この苦労も3歳までだから』を合言葉に乗り切ってきました。3歳になれば、あとは学校が朝から夕方まで面倒を見てくれる。保育料もかからなくなる。とにかく3歳になれば……」

 フランスは過去10年、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の平均数)が2.0前後で維持し、「少子化対策に成功した国」と言われている。その成功の原動力の一つが、この保育学校なのは間違いないだろう。

「この国の保育・教育関係者は『宝石のように価値のある制度』と胸を張ります。

 義務教育以前の子供たちを、言語や社会性の発達が著しい3歳を境にふたつの年齢層に分ける。そして上の年齢層を「教育」の枠に入れる。これは幼児教育政策であると同時に、保護者と保育業界の負担軽減策にもなっているのです」

無償の学校は「チャンス」

 この保育学校、いま現地では対象年齢を下げて「2歳児から」とする試験的な政策が進められているという。その目的を、フランス国家教育省の学校事務局長、マリー・クレール・デュプラ氏はこう話す。

「第一の目的は、教育の不平等の是正です。

 経済的に恵まれない地域では、フランス社会に根を下ろしていない家庭が多く見られます。フランス語を話せない保護者も多く、特に母親は働くこともできないまま、社会に関わらず子育てをする。結果としてその子供たちも、フランス社会に接点の少ない場所で育ってしまう。そして保育学校に入学する時点で、すでに差がついてしまうのです。そうした地域では居住環境も子供に適したものではない場合が多く、おもちゃや遊具も満足に与えられません。早期入学によって、子供たちを少しでも早く、その環境から出す。そして保護者たちにも、社会と接点を持ってもらう。保育学校の早期入学は、恵まれない環境にいる子供と親にとっては、一つのチャンスとなります。その意味で、単なる保育・教育の枠を超え、社会全体に関わる政策なのです」

 現在は国家的な事業として定着し、現在1万5千校まで広がった保育学校の始まりは1826年、パリの女性たちが有志で立ち上げた定員80名の「保護室」だった。

 小泉氏らの提言である「こども保険」はすでに「骨太の方針」に入っており、若手の提言が直接政府の政策に盛り込まれたかたちだ。これだけでも異例だが、それに満足することなく、諸外国の取り組みも参考にしながら、小泉氏らは今後も議論を深めていくという。

デイリー新潮編集部

2017年9月11日掲載

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