小泉進次郎大臣の育休はなぜ「2週間」なのか フランスの制度が参考に?

国内 社会 2020年1月21日掲載

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 小泉進次郎環境大臣の育休取得宣言は、本人の狙い通り反響と議論を呼んでいる。

「パフォーマンス」「大臣の仕事をちゃんとやれ」「制度を作るのが仕事のはず」というのが、否定派の意見。

 一方で、率先して取得するのは悪いことではない、という声も少なくない。

 さらには「取得するのはいいが、2週間では不十分だ」という先進的な意見を述べる人もいる。

 では、そもそもなぜ2週間なのか。

 仕事との兼ね合い、ということなのだろうが、もう一つ、「2週間」とした小泉氏の脳内には、フランスの制度があった可能性がある。

 フランスでは、出産後に男性が14日間連続で取得できる「男の産休」制度が定着している。これだけなら「偶然だろう」とツッコミが入りそうだが、実はこの制度について詳述した本『フランスはどう少子化を克服したか』(高崎順子・著)を小泉大臣は独身時代に読み、仲間の議員らと共に著者の高崎さんと面会し、話を聞いていた。実は高崎さん自身も、フランスで出産を経験して、この休暇の意義を感じた一人だ。

 小泉氏は面会の際、同書のあちこちに赤線を引き、高崎さんに熱心に質問をし、こんなふうに語っていた。

「この本、面白かった。書いてあるのはフランスの事例だけど、僕がこの本で一番という部分、読みますよ――『フランスの保育学校から得られる一番の示唆は、“初めは個人の熱意だった”ということではないか、と私は思っています。社会を変えることを諦めず、一人が仲間を募り、熱意を集めて形にすれば、いつかはそれが“国の保障する権利”にまで成長する』――本当にこれなんです。まずは個人の熱意。それから仲間を増やして、いつか国の制度を動かすものにするっていう。これなんです」

 小泉氏も参考にしたと思われる同書の第1章「男を2週間で父親にする」から抜粋して引用してみよう。

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男を2週間で父親にする

■あちこちに子連れパパが

 ある週末の、スーパーのレジ。私と同じ列で4組ほどの子連れ客が並んでいましたが、そのすべてが「父と子」の組み合わせだったことがありました。

「この国はやっぱり、子連れの男性が多いんだ……!」

 フランスに住んで10年近く、それまでまったく意識していなかったのに、自分が当事者になってみると、社会になんと「パパ」の多いこと! 保育園や学校への送迎、スーパーの買い物、公園での外遊び、PTAの会合、多目的トイレのおむつ替えルーム、図書館にプール、週末の朝のパン屋さん。子供と手をつないで、買い物袋を抱えつつ、スーツでベビーカーを押す。そんなお父さんの姿が、あちこちに見られます。

 この国では、父親の育児参加は当たり前の現象です。私の夫も日本に帰省すると「超いいパパ!」と友人知人から賞賛を浴びるのですが、それを聞いて誇らし気な夫の横で、私は軽く違和感を覚えてしまいます。

 夫も息子たちの親なのだから世話はできて当たり前だし、まして我が家は共稼ぎで家事・育児も分担制。実際、夫程度に育児をしているお父さんは、まわりにいくらでもいるのです。こう書き連ねてみると、我ながら感じが悪いですが、これはこちらの母親たちの平均的な意見でもあります。そのくらい、今の20代~40代のフランス人男性は普通に子育てをしているのです。

「母親より父親の方が寝かしつけがうまい」「いつもお父さんが送り迎えをしているから、たまにお母さんが行くと珍しがられる」「おむつ替えはお父さんの方が手早い」という話もよく聞きます。

 ですから、フランス語には「イクメン」に当たる言葉はありません。その代わりがパパ・プール(めんどりパパ)という表現ですが、ここには、子供の世話をものすごくするお父さんというニュアンスが含まれているくらいなのです。

 でも、彼らだって最初から「育児をする父親」だったわけではありません。

 女性は9カ月の妊娠期間中、体から否応無く「母」に変わることを自覚していきますが、大多数の男性たちは、子供をその手に抱く日まで「自分は父親なんだ」と体感できる機会がなかった、と言います。しかも妊娠中はパートナーの女性ともども、出産という人生の一大イベントに気が向きすぎて、その直後から子育ての毎日が始まる、というところまで考えが及ばないのが現実です。

 おまけにフランスはカップル社会で、友人との食事会やレジャーに行くのもカップル単位。男も女もお互いこそが「最優先するべき相手」と認めた上でお付き合いします。他国で「理想の恋人はフレンチ・ラバー」なんて言われるほど、カップルを大切にする文化に育った彼らにとって、その間を割ってくる子供の到来はなかなかにハードな出来事でもある。そんななか、男性たちはどうやって「いい父親」にシフトしていくのでしょうか。

 こちらではこの「男を父親にする」作業が、とても意識的に行われています。その代表が、出産後に2週間取得できる「男の産休」。短期集中合宿よろしく、パパ・トレーニングを行う期間です。

14日間の「男の産休」

 赤ちゃんの誕生後、サラリーマンの父親には3日間の出産有給休暇(Le congue de la naissance)があります。原型となる法律は1946年に制定された、由緒正しき有給休暇です。休暇中の給与はもちろん、雇い主が負担します。拒んだ雇い主には罰金があり、取得率はほぼ100%。フランスでの出産入院は通常3泊4日程度なので、経過が良ければ、妻の入院中の時間をまるまる一緒に過ごし、退院にも同行できます。

 この3日間が、お父さんトレーニングの本格的な第一歩。沐浴やおむつかえなど、入院中に助産師指導で進められるスケジュールは、父親の来院時間に合わせて組まれていきます。目標は退院時、父親も母親と同じくらい赤ちゃんのお世話をできるようになること。ミルク育児を選んだ家庭ではもちろん、ミルク作りや授乳のコツなども、父母が揃って教わります。

 大部分の産婦人科は「家族の宿泊お断り」で、こちらには里帰り出産の風習も無いので、父親たちはこの3日間を家事と産婦人科通いで過ごすことになります。赤ちゃんと妻の洗濯物を持ち帰り、買い物と食事の支度をし、退院までにベビーベッドを組み立てて、家の掃除もして……。

 出産有給休暇が終わった男性には、今度は11日連続の「子供の受け入れ及び父親休暇」(Le conge de paternite et d'accueil de l'enfant)が待っています。二つの休暇を合わせた2週間が、一般的な「男の産休」です。父親休暇は労働法と社会保険法に定められた制度で、これも雇用主が拒むことはできません。正しく運用しなかった場合は、雇用主に対する罰則もあります。

 2002年の施行からすばやく社会に浸透し、2012年には新生児の父親の約7割が取得したといいます。取らない3割は時間に融通のきく自営業者が中心で、「わざわざ産休を取らなくても、仕事時間を自主的に加減して出産に備えよう」と考える人たち。対象を公務員に限った場合、取得率はほぼ9割に達しているそうです。

 ではこの休暇中、給与はどうなっているのでしょうか。3日間の出産有休は雇用主負担ですが、11日連続の「子供の受け入れ及び父親休暇」は、給与明細上では無給休暇扱い。が、それが実質的に有給休暇になるように、国の社会保険から休暇中の所得分が支給される仕組みになっています。その額は休暇前給料の日給相当額(2016年1月現在で1日83・58ユーロが上限)の11日分。つまり父親の産休2週間のうち、3日間は雇用主が、11日間は国がまかない、有給休暇とされていることになります。

 失業中や職業訓練中でも取れ、養子縁組で子を迎えるときでも取得可能。休暇は11日連続で取得することを条件に、子供が生後4カ月になるまでいつでも取れますが、出産有休と合わせて2週間連続の休みとする人が多数派です。

「赤ちゃんと知り合う時間」

 退院後、赤ちゃんを家に迎えてからの数週間は、親にとって文字通り手探りの時間。何もかもが初体験の連続で不安で一杯、とにかく赤ちゃんのリズムに合わせて過ごすしかありません。泣いたら授乳し、おむつをかえて、それでもダメならだっこであやして。次第に、その赤ちゃんのリズムや、好きなだっこのポジションなんかが分かってくる――この時期をフランスでは「赤ちゃんと知り合う時間」と言います。私自身、産院での出産準備クラス(両親学級)や産後の助産師指導で初めて耳にしました。日本の妊娠・出産情報では見聞きしないので、個人的にとても印象に残っています。

 その大切な時間を一緒に過ごすことで、ときに笑い、ときにぶつかりながら、男女のカップルは父親と母親になっていくのです。

「ウチのパートナーは、あの2週間でがらっと変わったわね」

 友人の一人が話してくれたことがありました。彼女は弁護士、パートナーは地方公務員のフルタイム共働きで、両方の実家はパリから電車で4時間のところにあるという、典型的な核家族です。

「妊娠中はやっぱり、『産むのは君だから』みたいなところがあったのよね。彼は育児本も読まなかったし、産婦人科の出産準備クラスに行くことも無かった。でも産休中の2週間、夜の授乳を私がやって、昼の世話は彼に任せていたの。産後の私の体調がぼろぼろだったしね。入院中に一通りのお世話を習っていたから、できちゃうもんなのよ。それで7年目の今では、パパとしては本当に文句なし。今考えても、あの2週間はありがたかったわね」

「人生で一番大切な時間だった」と振り返る父親もいます。妊娠が分かったとき、銀行勤務で20代後半だった男性はパートナーをパリに残して、車で2時間の地方都市に単身赴任中でした。週末に帰宅するたび、彼女のお腹がどんどん膨らんでいっても、自分が父親になる自覚はまったく湧かなかった、と言います。

「子供はずっと欲しかったけど、妊娠中はすべてがバーチャルでふわふわ、こんな風で大丈夫なのかな、と思ってました。でも娘が産まれて手にした瞬間から、現実がどん!と重く実感されましたね。産休期間はずっと、自分が父親になったことを確認していくような気分でした。

 子供は陶器の花瓶みたいにすぐ壊れそうに見えて、最初は服に腕を通すだけでもパニックでしたよ。ちょっとしたことでも、僕には事の重大さが分からないんですから! でもそれを毎日やっていくことで慣れて、自分に自信がついていく。僕は他の有休も組み合わせて、結局1カ月の休暇にしたんですが、休みが明ける頃には、もう一日中一人で子供の世話ができるようになっていました。あの休暇で自分は、意識も行動も『父親』になったんだと思っています。

 あの休みを取らなかったとしたら? ……うーん、考えられない。僕のことだけではなく、産後のパートナーをしっかり休ませる意味でも、最初の数週間は僕が家にいる必要があったから。それに、どんなに結びつきの強いカップルでも、子供が来たとたん、関係が変わりますしね。2人きりだったのが、子供とそれに関わるすべてを分担し合う仲に変わるんですから、小さなことでも2人でみっちり話し合って、確認しながらやっていくことが大切なんじゃないかな、と」

 そうして意識的に過ごしても、新しい家族のバランスとリズムが出来上がった、と感じるまでには、1年くらいはかかったそうです。

毎晩ゲーム機に向かった夫

 我が家でも会社員の夫が2週間まとめての産休を取りましたが、あれは本当に大きな節目でした。長男の世話をしながら、「小さすぎて、壊しちゃいそうだー」と連発していた夫。ある日はお風呂に入れながら、「この子ってほんとに、俺たちがいないと何もできないんだな」としみじみ呟いていました。思い返せば感動的な場面がたくさんあったものの、すべてが順調だったわけではありませんでした。

 ある日、夜間授乳で疲労の限界だった私の堪忍袋の緒が切れたのです。きっかけは、夫の「何を手伝えばいいの?」の一言でした。

 ここは2人の大人が住む家で、この子は2人の子なのに、「手伝う」という考え方はおかしい! 自分で考えて動いてよ!

 夫は夫で、「善意から言っているのに、なんだよ」と返し、それまでの付き合いで、一番険悪な時間を過ごしたものでした。長男が寝ると、殻に閉じこもるようにゲーム機に向かってしまう夫の背中を見て、「赤ちゃんがいる家って、幸せなんじゃなかったっけ」と深く悲しくなった思い出もあります。とはいえ夫も産休中なので、その後も毎日家にいる。赤ちゃんのお世話もノンストップでこなさないといけない。できるだけ互いが互いの負担にならず、親としての新しい現実を暮らしていくためにはどうしたらいいのか。初めて、真剣に話し合いました。そして産休明けの朝。

 夫は長男をぎゅーっと抱きしめて、その後に私の肩を抱き、「俺だけ先に仕事に出て、ごめんな。ありがとう」と言って出勤しました。産後のホルモンバランスの激動で感情的になっていた私は、温かい言葉に再び号泣しつつ、長男とともに夫を見送りました。そうして、私たちの「初めの2週間」は幕を閉じたのです。あの濃密な期間は、私たち夫婦の大きな転換期だったと、今でも時々思い返します。

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 もちろん、フランス人も全員がこの休暇を取得できているわけではない。あまり父親の自覚がない人は、取らないことがあるという。そして当然ながら2週間も休むことは決して容易ではない。それでもなぜ取得したのか? 高崎さんが経験者に聞いたところ、職種・業種を問わず、全員から同じ答えが返ってきたそうだ。

「そりゃ、人生で一番大切なことだから!」

デイリー新潮編集部