「使用済みオムツ持ち帰りは親への罰みたい」――手厚い日本の保育園、シンプルなフランスの保育園を考える

ライフ 2016年10月29日掲載

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フランスの保育園ではみんな「手ぶら」で通うと耳にして脱力しそうになった――

■月曜日の大荷物

 またあの大荷物を運ぶのか――。都内の認可保育園に1歳児を通わせるA子さん(34歳)は、毎週月曜日がゆううつだという。
 娘の名前を書いた紙オムツ5枚に、同じく記名したビニール袋2枚。食事用エプロン2枚、口拭きタオル2枚、手拭きタオル、コップ、着替え(肌着・上着・ズボン)1枚ずつ、記入済みの連絡帳。肌寒くなるこの時期は、お散歩用の上着も必要だ。
 月曜日には、これら「毎日の持ち物」にお昼寝用の掛け布団カバー、掛けタオル2枚が加わる。2か月に1度は布団そのものも洗って持って行かねばならない。すべてを手提げ袋に入れると、A子さんの仕事用バッグをはるかに超える大きさと重さになる。

 では、帰り道はラクになるのか? そうではない。今度は、荷物一式に使用済みのオムツ5枚が加わるのだ。もちろん我が子のものとはいえ、臭いの漏れるオムツの運搬と片づけは、フルタイム勤務を終えた夕方の疲れを倍増させる。
 近所にある別の保育園では「毎日の持ち物」は着替えとコップ、連絡帳だけだそうだ。いっそ保育園を変わりたいと思った矢先、フランスの保育園ではみんな「手ぶら」で通うと耳にして脱力しそうになった。
「いったい、私の毎日のこの苦労は何なんだろう?」

 パリ郊外で子育てをするライター、高崎順子さんは次のように話す。
「息子たちは確かに、『手ぶら』でフランスの保育園に通っていました。エプロンやタオルなど、園で必要なものはすべてスタッフが洗ったり、管理したりするのが普通です。
 日本では園によってオムツの持ち帰りがあると聞いて、それは驚いたものです。試しにこちらの人々にどう思うか聞いてみると『排泄物を持ち帰らせるって、なんだか親に罰を与えているみたい』という反応が返ってきました。
 フランスの保育園は、保育園は子供が育つための場所であると同時に、保護者の負担を軽減するための場所。親の負担は最低限で済むように運営されているのです」
 
 どうやら日本とは大きく異なるフランスの保育園、実際にはどんな模様なのだろうか。高崎さんの新刊『フランスはどう少子化を克服したか』から抜粋・引用してみよう。

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■連絡帳も、運動会も、入園式も「なし」

 フランスの保育園では、親と園の間で毎日交換する連絡帳がありません。スタッフが子供の昼寝時間や排泄回数、食事の様子を記す日誌はありますが、それはあくまで園内資料。先生たちの労働時間が限られているので、滞りなく子供の世話ができるよう、業務内容が最適化されているのです。
 我が家の子供達が通った保育園には園庭がなく、「外遊びをさせる」ことになっていましたが、天気が良く、クラスの状態が良く(病気が流行っていない、など)、担任の先生たちが「今日ならいける」と判断する条件が揃った時だけ。多い時で月数回……と、その頻度は本当に不定期でした。

 行事も「お楽しみ会」など、年に2回のみ。入園式や卒園式、運動会やお遊戯会もありません。毎月の「お誕生日会」はおやつの時間がちょっと豪華になる、という具合でした。

 日本育ちの私には、こうしたフランス方式がそっけなく感じられることが多々ありました。特に寂しかったのは、入園式・卒園式がないこと。またエプロンやタオルなどに「その子専用のものがない」ことも、どこか詫びしい気持ちにさせられました。もう少し、家と園での生活をつなぐものがあっても良いのではないか。
 率直に園長に尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。

「ここは集団生活の場ですからね。原則が違うんです。私たちの仕事の基本は、保育園で過ごす間、子供達がそれぞれ尊重されていること、愛情を受けていると感じられるようにすることです。そして知覚の目覚めを促すこと。それ以外のことは二の次なんです」

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 持ち物から行事まで、「ある」ことが当たり前の日本の園と、「ない」ことが当たり前のフランスの園。大きく分けると、手厚い保育とシンプルな保育とも言えるだろう。

 どちらがいい、と簡単に言えるものではない。だが日本の園の手厚さというものが、「持ち物」など保護者に掛かる負担と、保育士に掛かる負担にもつながっているのは事実だろう。

日本では保育士の給与問題に続いて、その過剰労働が注目視され始めている。運動会ひとつを取っても、園児たちの衣装から「入場門」まで、その制作を担うのは保育士だ。

彼らはフランスの保育士ほど、子どもたちの世話に集中できているのだろうか。過剰勤務で疲労やストレスが蓄積されているのは間違いないだろう。

 高崎さんによれば、フランスが少子化危機を脱し、子どもが増える国となった理由のひとつが、この機能的な保育園だという。であればフランス流を参考に、保護者と保育園それぞれに掛かっている負担について、見直しを始めることはできないものだろうか。

デイリー新潮編集部