文在寅政権が韓国の三権分立を崩壊させた日 「高官不正捜査庁」はゲシュタポか

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公捜処はゲシュタポになる

――何と無茶苦茶な。反対の声は起きなかったのですか?

鈴置:もちろん、保守は死に物狂いで抵抗しました。第1野党の自由韓国党は代表の断食を含め、街頭闘争も繰り広げました。最大手紙の朝鮮日報は連日のように社説で「公捜処はゲシュタポになるぞ」と警告を発しました。

 ただ、普通の人の広範な共感は得られなかったようです。政権が「検察改革」との大義名分を掲げたからです。

 これまで検察を悪用してきた保守が反対すれば、利権を手放したくないと悪あがきしているように見えて、反感さえ買います。一方、左派の人々は当然、賛成です。保守が独占してきた検察権力を我が手にできるのですから。

――普通の人が少し考えれば、三権分立の破壊と分かるでしょうに。

鈴置:韓国人は「行政、立法、司法が牽制し合う」という仕組みになじんでいないのです。大統領を出した側が全ての権力を握る、という発想がしみ渡っているのです。

 もちろん、権力を獲得できなかった側は激しく政権を批判します。しかし、自分の権利を守るために三権分立、厳密に言えば「司法に期待する」のではなく「権力側に立つ」ことに注力してしまう。

 1987年の民主化により権威主義的な体制が否定され、三権分立が謳われました。しかし、それは制度的にも意識の上でも根づいていないのです。

「選挙法改正」で釣られた小政党

――普通の人はともかく、立法に携わる人々は三権分立の破壊に危機感を持たなかったのでしょうか。

鈴置:朝鮮日報の「<記者の視覚>非民主的な民主党」(1月3日、韓国語版)によると、与党「共に民主党」内にも「高官不正捜査庁設置法案」に疑問を持つ議員がかなりいたようです。

 自由韓国党が無記名投票での採決を求めたのも、彼らの良心に期待したからでしょう。ただ結局、記名投票となり、与党からの反対票は1票だけしか出ませんでした。

 反対票を投じた議員は党内から袋叩きになったそうです。政治家たちは韓国の国益を忘れ、党派の争いに没頭しているのです。

――「共に民主党」と自由韓国党のほかにも政党があります……。

鈴置:野党第2党で中道右派を標榜する正しい未来党、急進左派の正義党、全羅南北道を基盤とする左派の民主平和党、そこから分かれた代案新党などがあります。

 「共に民主党」は、これら4政党に2020年4月の国会議員選挙で比例代表の度合いを濃くするとの法案を提示。小政党に有利な新しい選挙法を餌に「高官不正捜査庁設置法案」に賛成させたのです。

「共に民主党」の議席は過半に及びませんから、これら4政党が反対に回れば法案は通らなかった。後世の韓国人は「共に民主党」のあざとさに加え、4政党の身勝手さをも恨むことになると思います。

司法と立法を押さえ永久政権

――保守はどう対抗するのでしょうか。

鈴置:まず、「高官不正捜査庁は憲法違反である」と憲法裁判所に訴える手があります。憲法にも書かれていないというのに、三権分立を破壊する組織を作るのは違憲だ、との主張です。

 しかし、憲法裁判所がこれを認めるかは疑問です。裁判官の多くが左派であるうえ、憲法裁判所の裁判官自身が高官不正捜査庁の捜査対象だからです。
 
 保守にはもう1つ、高官不正捜査庁を防ぐ手があります。発足は2020年7月頃の予定ですから、4月の総選挙で過半数の議席を確保して廃止法案を通すのです。実際、保守は総選挙に全力を尽くす構えです。しかしここで、2019年12月27日に可決した新しい選挙法が効いてきます。

 4月の選挙では比例代表の度合いが一気に高くなるため、自由韓国党が過半をとるのは難しくなった。それどころか保守の小政党を合わせても3分の1以下の議席に転落し、左派に憲法改正を許す可能性さえあるのです。

 通信社、ニューシスが直近の支持率を基に、党派別の比例議席を推測しました。「新選挙法で各党の議席数の変化は…正義党が『最大の受益』」の見通し」(12月27日、韓国語)です。

 それによると、地域区と合わせた全300議席のうち、自由韓国党は現在の108議席より3議席減らした105議席に留まる見込みです。

 共に民主党は実にうまく立ち回った。議会で保守を弱体化すると同時に、返す刀で検察を自分の傘下に収めたのです。

 「共に民主党」の李海瓚(イ・ヘチャン)代表はかねがね「100年執権論」を唱えています。左派がずうっと政権をとり続ける、との意味です。司法と立法を押さえ「永久政権」の基礎を築いたつもりでしょう。

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