文在寅政権が韓国の三権分立を崩壊させた日 「高官不正捜査庁」はゲシュタポか

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年1月7日掲載

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盟友の遺恨を晴らす文在寅

――100年執権とは大げさな……。

鈴置:本気です。韓国では、野に下れば権力を握った側にぼろぼろになるまで叩かれる。一度握った権力は絶対に手放せないのです。「韓国歴代大統領の末路」をご覧下さい。「畳の上で死んだ」――韓国ですから「オンドルの上で死んだ」大統領はいないのです。

 ことに今、韓国の左右対立は極まっています。文在寅政権は保守を積弊――諸悪の根源――と呼び、徹底的に叩いています。牢屋に放り込まれたのは、2人の大統領経験者だけではありません。

 朝鮮日報・楊相勲(ヤン・サンフン)主筆の「懲役合計100年 『積弊士禍』の陰の理由」(2018年3月22日、韓国語版)によると、2018年3月段階で保守政権時代の官僚ら110人が起訴、60人弱が拘束されました。長官・次官級だけで11人が収監されました。

 もし、次に保守が政権をとれば、徹底的にやり返されるのは目に見えています。政権を渡すわけにはいかない。となれば、三権分立などぶち壊しても権力を握りしめるしかないのです。

――なぜ今、突然に左右対立が激しくなったのでしょう?

鈴置:文在寅大統領は盟友、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領を保守に殺されたと考えています。李明博政権が検察を使って疑惑を捜査し、その圧力に耐えかねて自殺の道を選んだからです。遺恨試合です。

 それに加え、北朝鮮要因も大きい。保守は米国との同盟を重視する。一方、左派は同じ民族である北朝鮮との和解を必須と考える。北の核武装を巡り緊張が高まる中、親米派の保守と民族派の左派は妥協の余地がなくなったのです。

民主主義の死に方

――それにしても韓国で、民主主義が後退するとは……。

鈴置:日本では驚きを持って迎えられるでしょうね。1980年代以降、経済成長を果たしたアジアの多くの国で、民主化も進んだ。

 このため、民主主義というものは進展するのが当たり前、と多くの人が思っている。それに韓国でもそうですが、日本では左派こそが民主主義の推進役との誤解がある。

 でも、民主化は進む一方ではありません。民主主義が後退することだってあるのです。両大戦間のドイツ、イタリア、日本を思い出して下さい。

 第2次大戦後の中南米でも民主主義が後退し、独裁体制が相次ぎ登場しました。ちなみに、ベネズエラは左派政権によって民主主義が崩壊しました。

「なぜ、そして、どういうプロセスで民主主義が後退するのか」を研究した本が2018年に出版されました。ハーバード大学のレビツキー(Steven Levitsky)教授とジブラット(Daniel Ziblatt)教授が書いた『How Democracies Die』(2018年1月)です。『民主主義の死に方』とのタイトルで邦訳も出ています。

 ひと昔のように、軍部がクーデターで民主的な政体を転覆し、強権的な統治を布くケースは減った。一方、選挙を通じ誕生した政権が三権分立を破壊しながら――民主主義を破壊しながら独裁政権に変わるパターンが増えた、と指摘しています。最近ではハンガリー、トルコ、ベネズエラがそれに当たります。

審判を抱き込み、相手を欠場させる

――どんな時に、どうやって民主主義が後退するのでしょうか?
 
鈴置:「激しい国内対立が起きた時」と、この本は指摘しています。「対立する勢力を抹殺しなければ自分がやられる」と判断すれば、それが民主的に選ばれた政権であっても、三権分立を壊していくのです。

――まさに、今の韓国ですね。

鈴置:民主主義の死に方』の第4章は、民主主義を崩壊させる3つの手口を、サッカーの試合を例に説明しています。(1)審判を抱き込む=司法を支配するなど(2)対戦相手を欠場させる=敵対する政治家の逮捕など(3)ルールを変える=選挙区の変更など――です。

 文在寅政権は3つの手口すべてを使っています。第9章では韓国を「民主化後にその体制を維持してきた国」の1つに挙げています。この本の次の版で韓国がそう分類されるかは分かりませんか……。

――韓国は、どうなるのでしょうか?

鈴置:保守が4月の総選挙で勝てないと、議会で高官不正捜査庁を防ぐ手はなくなります。その後は街頭闘争に打って出るしかありません。しかし、それは蟷螂の斧。検察も裁判所も握った左派政権に蹴散らされるのは確実です。残るはクーデターです。

アジアのベネズエラに

――アジアのベネズエラになるのですね。

鈴置:ベネズエラでは左派の独裁体制に軍がクーデターで対抗、混乱を深めました。確かに似てきました。左派が中国を引きこみ、保守が米国を頼りにする点でも、韓国のベネズエラ化は進むでしょう。

 文在寅政権は中韓同盟を唱えるほど、中国への依存を強めています(「ついに『中韓同盟』を唱え始めた文在寅政権 トランプ大統領は『韓国は北朝鮮側の国』と分類」参照)。

 一方、保守は集会で太極旗とともに星条旗を掲げるようになりました(「2020年の朝鮮半島 『帰らざる橋』を渡り始めた韓国 南北クーデターの可能性に注目」参照)。

 朝鮮半島の人々は、政敵を倒すためには外国の力を借りることも躊躇しません。民主主義体制を壊す、といった程度では留まらないのです。

 韓国の内政の混乱は必ず、周辺に波及します。日本も「韓国人のいつもの内輪もめ」などと、突き放して見ているだけでは済まないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

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