「摂食障害」に陥った31歳女性を一瞬で回復させた「意外なひと言」

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痩せていないのに愛されている女が憎い

 それから10年後、私はモラハラ男R氏が原因でまた摂食障害をぶり返してしまった。胃が食べ物を受け付けなくなり、45kgあった体重は一番軽いときで40kgにまで落ちた。そして、毎朝体重計に乗って体重をチェックしないと不安感に襲われるようになった。100gでも増えていると痩せなければと思ってしまう。

「痩せていないと愛されない。でもR氏の彼女は決してガリガリなわけじゃない。痩せていないのに愛されている女が憎い」。そんな思いが駆け巡る。

 食欲は一切わかない。栄養不足で口角炎や口内炎がなかなか治らない。病院では食欲を出す漢方薬とビタミン剤を処方されたが、効いているのかどうか分からない。

 区で安く健康診断を受けられる制度で6年ぶりに健康診断を受けたら「痩せすぎ」と医師に指導された。身長は少し伸びて156cm、体重は42kgだった。しかし、血液検査や尿検査などでは異常はなく、健康そのものだった。

「あんたの腕、この魚の骨みたいじゃん!」

 ほとんど食べず酒しか飲まない私に、食べかけのホッケの塩焼きを指さして友人が言った。そこから「姫野を太らせるぞ!」と、友人たちがしきりに食事に誘い始めたが、私は出されたものを食べないので太らず、友人たちばかり肥えていった。ときには、友人たちから無理やり口に食べ物を押し込まれたこともあった。

 そんな私がある日突然食べられるようになった。きっかけは医療関係の職についている男性のHさんに摂食障害を告白した際に言われた一言だった。

「僕が桂さんの食事を介助します」

 この魔法の言葉により、私は約1年ぶりにまともに食事を摂れるようになった。食べ物に味があることを知り「おいしい!」と思えた。手の込んだ料理や常備菜作りも自らするようになった。久しぶりに冷蔵庫内は食べ物で溢れかえった。

「あなたには心の病気を治す力がある」

 Hさんにそう言ったものの彼は謙遜し「そんなものはない」と言われた。ただ、彼が今まで付き合ってきた女性は全員メンタルを病んでいる女性ばかりだったらしいので、メンヘラ女性への耐性があり、扱いに慣れているのだろう。

 この後、彼と恋愛に発展するのだが、彼から実際にスプーンでガパオを食べさせてもらった。さすがプロ。食べさせ方がうまい。スプーンに取る量も食べさせ方もタイミングもバッチリ。こぼすこともない。

 このエピソードを、私より少し年上の女性作家や女性ライター、女性編集者やその周りの女性たちで定期的に集まって飲んでいる「デンデラ女子会」(雨宮処凛さんの著書『非正規・単身・アラフォー女性』〈光文社新書〉に出てくる女だけのババアシェアハウスを作ろうという話題や、姥捨て山に捨てられた老婆たちが実は女だけで生き抜いていたという映画『デンデラ』になぞらえて命名された会)で話すと「キャーッ!」と歓声が上がった。それほどロマンチックな展開だ。

 体重は相変わらず増えないが、体重が増えることの恐怖心がなくなり、あんなに毎日乗っていた体重計に気が向いたときしか乗らなくなった。

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