「摂食障害」に陥った31歳女性を一瞬で回復させた「意外なひと言」

「普通の女子」になれなかった私へ2019年4月26日掲載

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健康的な依存と不健康な依存

 以前、摂食障害のベテラン専門医を取材したことがある。その医師も若い頃は「今日は頑張って食べようか」と患者に声をかけては失敗していたという。摂食障害の人に「食べよう」は禁句に近いのだ。だから、Hさんによる「介助します」という一言は、寄り添って手伝うという意味として、しなしなに萎んでしまっている心へ、たっぷりと水分を与えてくれたのだ。

 そう言えば先日観た、精神科の女性専用の閉鎖病棟の模様を描いた映画『クワイエットルームにようこそ』では、多くの摂食障害患者が登場していた。彼女たちは食べ吐きを繰り返したり、全く食べなかったり、食べないせいで栄養剤を点滴されている間中「カロリー! カロリー!」とぶつぶつ言いながら歩き回ってカロリーを消費していた。

 また、1000ピースのジグソーパズルを他の患者と協力して完成させられた日、摂食障害の「サエ」は入院して以来初めて食事を完食した。あのシーン、はっきり言ってあれだけで食べられるようになるのだろうかと疑問が残ったが、よく考えると私だって「介助します」の一言で食べられるようになった。要するに、孤独に寄り添ってくれる人の存在が大きいのだ。

 摂食障害が治った。そう言いたいが、摂食障害は依存症の一種なので完治は難しく、一生付き合っていかねばならない。また、彼のおかげで摂食障害が治ったと思い込んでしまうことも彼に依存することに繋がるので危険である。できるだけ、物事を客観的に捉え、「事実」に着眼して自分の気持ちを整理していきたい。

 依存には健康的な依存と不健康な依存がある。それらは紙一重で、一歩間違うと、どちらかが憂鬱な世界へ引きずり込まれてしまう。そのスレスレを味わうことのスリルも、もしかすると私が依存体質から抜けられない要因の一つなのかもしれない。

 医師の熊谷晋一郎氏は「自立とは依存先を増やすこと」と講演やインタビューでたびたび語っている。私も「Hさんのおかげで摂食障害が治った」と思い込んでしまうと依存先が一つになってしまう。きっと、摂食障害が良くなったのは彼のおかげだけではない。共依存について自分で勉強したり、きちんと通院したり、デンデラ女子会で発散したり、友人と遊んだりしたおかげだ。その中でも、Hさんの存在が大きかった、というだけだ。

 依存先が少ないと孤独という病に侵される。孤独を避けられるよう「私は感情がある人間だ」と言い聞かせて今後も人と触れ合っていきたい。

姫野桂さん連載『「普通の女子」になれなかった私へ』バックナンバーはこちら https://www.dailyshincho.jp/spe/himeno/

姫野桂(ひめの けい)
宮崎県宮崎市出身。1987年生まれ。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをして編集業務を学ぶ。現在は週刊誌やWebで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)。ツイッター:@himeno_kei

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