追悼「勝谷誠彦さん」 週刊新潮で嘆いたニッポンの「バカ基準」

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 コラムニストの勝谷誠彦さんが、心不全のため11月28日亡くなった。享年57。

 通夜の挨拶に立った実弟で勝谷医院院長の友宏さんは、

「自分を中心に、自分を絶対に曲げずに、正しいと思ったことは正しい、自分がやりたいと思ったことはやる、その上で話をする、ということをモットーに生きて参りました」

「実に多種多様の方々に可愛がっていただきまして、これも兄の特徴と言いますか、憎めないキャラクターと言いますか(中略)もちろん、いろいろと皆様を傷つけたり、言っちゃいけないことを言ったり、やっちゃいけないことをやったり……」

 と語った。歯に衣着せぬ物言いで知られた勝谷さんは、週刊新潮2016年11月10日号に「バカな私が日々嘆くニッポンの『バカ基準』」という社会時評を寄稿している。バカを基準としているのが今の日本で、バカに合わせたらそうではない者が迷惑する――持説を曲げなかった故人の“警鐘”を、以下に掲載したい。

 ***

 最初に断っておくが、私はかなりのバカである。そこらじゅうで頷いている友人知人、おね~ちゃん(見栄)の姿が見える。「ばっかじゃないの」と言われることが日常茶飯事だ。

 いいのであるそれで。「ばっかじゃないの」のひとことで私は「慮外者(りょがいもの)」となる。この日本語はまことに美しく「自分たちの常識や価値観から外れたひとびと」を優しく、笑いながら見守っているという価値観がある。そこには差別も多少はあるかもしれないが、多くは区別だ。「あっちの世界のひとたち」として棲み分けをしているのだ。

 ところが最近、いや、かなり前からこの垣根が壊れてきてしまったような気がして私はならない。「あのひとはアレだから」と別のところにいたのが「あのひと」を良民常民の中に入れてしまって、彼ら彼女らが助かるように基準そのものをかえてしまっているのだ。バカを代表して言わせていただくと、これはたいへんに申し訳ない。バカとしてはいたたまれない。

 バカではあるが、そのへんのバカと一緒に銀行のATMで「携帯電話のご使用はお控え下さい」と言われたり、コンビニで「ポイントカードはお持ちですか」と言われるのが、どうも気に食わないのだ。私は別種のバカであって、種族が違うと言いたい。わからないか。しかし、今回はそういうことについて書く。「バカ基準とは何か」ということだ。

 これを機にバカについてちょっと考えた。私が最初に気づいたのはまだ小学校に上がる前だったかも知れない。エスカレーターに乗っていると、のべつまくなしにアナウンスがかかる。みなさんにも記憶があるだろう。「良い子のみなさん……」でたいがい始まるのである。そのころから根性がひねくれていた私は「良い子やないから聞かんでええやろ」と考えていた。

 続いて「体を乗り出したりすると大変危険です。やめましょうね」。アホか、と心から思った。体を乗り出したら壁との間にはさまれて死ぬということは、わかりきったことやろ。そんなアホ、死んだらええやんけ(関西の中でも下品な尼崎市で育ったのです。すみません)。そういうところで育ったので、そういう考えを持ったのだろう。

 同じく子どものころに「なんでやろ」と首を捻っていたのが国鉄の「危ないので白線の内側に下がって下さい」だ。命がおしければ、誰だって下がるだろう。毎日何十回もそれを言っている職員は疑問を感じないのか。「死んだらええやん」はずっと私の口癖であった。

 実はこの「死んだらええやん」は「バカ基準」と裏表なのである。自分に責任を持てないバカは「死んだらええやん」。社会としてはバカがひとり減って、コストが下がる。

 海外での仕事が増えたころ、私はこれに確信を持った。「あなたの責任において、このエレベーターに乗りなさい」的な表示が多いのだ。もちろん、訴訟社会において、オーナーがややこしいことをさけるためなのだが、そこにある意味の矜持を感じた。私は耶蘇の徒は余り好きではないが、イスラエルの沙漠は好きで、考えの基本はなんとなくわかるものである。

「そうだろうな」と感じた。まあまあ、なあなあはないのである。バカに対して彼らは「お前はバカだ」とハッキリと言う。言われたものは、自分がバカでないということを反証しなくてはいけない。これがなかなか難しい。バカだと決めつけるのは簡単だが、バカではないと言うには「偉ぶらなくて」はいけない。私も所属している吉本興業が楽なのは、ほんわかほんわ、ほんわかほんわと、アホの音楽を流して「アホですからあ」から始まっているからだ。あざとい商売と言うほかはない。

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