“がん”を水攻めで破裂死――新たな治療法「光免疫療法」 開発した医師が解説

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食道がんや大腸がんも

 そうして生まれた“第4の治療法”の特長は、

「あらかじめ狙ったがん細胞だけを破壊し、周囲の正常細胞への影響が最小限であることです。例えるなら、雑踏の中、ピンポイントでターゲットの悪者だけを選択して狙撃できる『高性能ライフル』のようなものです」

 さらには、

「破壊されて周囲に飛び散ったがん細胞の破片を、活性化した免疫細胞が次々に食べて、がん細胞をより良く認識して攻撃する現象も確認されています。つまり、がんを直接叩くという効果のほか、人が本来持っている免疫機能も生かす効能があるのです」

 というのだ。

「最近は免疫療法が何かと脚光を浴びていますが、いずれもがんを直接殺さず、免疫を活性化する方法を用いている。免疫療法では、がん細胞を全部殺せなければ『負け』です。ところが一つのリンパ球が殺せるがん細胞には限りがある。最初は頑張って働くものの、そのうちリンパ球自身が疲れ切って死んでしまいます」

 その時点でがんが死滅していなければ「負け」だ。

「光免疫療法が従来の免疫療法と異なるのは、がん細胞の数を減らしながら同時に免疫力を落とさず、逆にアップさせていく点。つまり光でがんを直接叩き、同時に免疫を作るという“二段構え”の治療法なのです。直接攻撃と免疫力アップを同時に果たす治療はこれまでありませんでしたが、この二つを実現できなければ、がんとの闘いは終わりません」

 アイデアを実践に移して十余年、2015年には米食品医薬品局(FDA)から治験が認可され、日本でも今年3月、国立がん研究センターが治験を開始している。うち米国では、その治療法によって大きな副作用がないか確認する「フェーズ1」、そして治療効果の有無を確認する「フェーズ2」が終了。現在は、既存の治療法に対する優位性を検証する「フェーズ3」の準備段階にあるという。

「今回は『グローバル治験』といい、海外で行なった治験結果をそのまま日本の治験と共有できるため、大幅なスピードアップになります。これから米国でフェーズ3に入ることで、日本でも同じ段階に移ります」

 とのことで、

「光免疫療法では現在、喉頭がんや咽頭がんなどの頭頸部がんで発現する『EGFR(上皮成長因子受容体)』という抗原に対応する『セツキシマブ』という抗体を用いています。従って治験の対象も頭頸部がんに限定して進めていますが、このEGFRは食道がんや大腸がん、胆道がん、そして一部のすい臓がんや乳がんの表面にもあるため、すでに動物実験では成功している他の部位への適用も視野に入ってきます。また、がん治療に利用できる抗体は他にも20種類ほど実在しているので、最終的には8〜9割のがんに対応できると考えています」

 実際にフェーズ1、2の結果は良好だったという。

「途中結果の合算で、頭頸部がんの患者さん15人のうち、がんが完全に消えた方が7人。かなり小さくなった方が7人。残り1人も進行は変わらないという結果を得られました。『奏効率』は15分の14、つまり93・3%になります」

 フェーズ3をクリアすれば晴れてお墨付きを得られ、保険適用へと道が開ける。

 ところで、実用化の暁に気がかりなのはお値段だ。小林医師は、

「この療法で必要なのは、IR700を付着させた抗体と、近赤外光を発するレーザー光源くらいです。抗体のセツキシマブは現在、1回投与で実費はおよそ数万円というレベル。高額なオプジーボや放射線装置に比べれば、相当安い金額で治療が受けられることになります。加えて、患者さんへの身体的負担は圧倒的に軽い。治療は抗体を注射し、その後数回、光を当てるだけ。早期がんであれば、入院せずに数回の通院だけで対応が可能となるでしょう。これほど負担のないがん治療は初めてだと思います」

“第4の道”は、もうすぐ見えてきそうだ。

週刊新潮 2018年10月4日号掲載

特集「人類最大の敵『がん』撲滅に現れた最終兵器」より

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