順天堂大学医学部・樋野教授「“○○でがんが消える”などのがん情報のほとんどに意味はない」 情報中毒の危険性を語る

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「○○の習慣でがんが消えた」

「▲▲はダメ、□□を毎日食べなさい」

 こうしたメッセージがネットや週刊誌、書籍に溢れている。健康なときには目に入らなくても、自分や家族ががんになればついアンテナが立ち、読みたくなるのではないだろうか。

 しかし、「ほとんどはあまり意味のない情報です」と順天堂大学医学部教授で「がん哲学外来」担当医の樋野興夫氏は言い切る。

 樋野氏の創設した「がん哲学外来」はがんにまつわる相談を受けつける外来で、全国80カ所に広がる。樋野氏に向き合った患者や家族は、主治医には打ち明けづらい悩みや不安を口にするという。なかでも数多いのがサプリメントや食事療法についての相談だというのだ。

 一例として、ご主人が大腸がんで入院しているという女性の相談例をご紹介しよう。(以下は樋野氏の新著『がん哲学外来へようこそ』より)

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■サプリメントで混乱

女性「毎日病院に通って主人の様子を見ているのですが、退院した後のことが気になってきました。いま色々な記事が出ていて、読むと『このサプリメントを摂りなさい』『野菜ジュースを飲みなさい』『冷えを防ぎなさい』って、限りがなくて。どれを信用したらいいのか、分からなくなってきました」

――そういう情報に期待しすぎると、あなたもご主人も、疲れてしまいますよ。

女性「そうですよね。子どもたちも一喜一憂するなと言うんです。私が色々なところから情報を得ているから。いまは知人から、がんを消すっていうプロポリスを勧められています。東大病院でやってるものだからって。でも本当に効くのかなと……」

――東大の誰がやっているんですか?

女性「それは分からないです。東大の先生だって」

――本当に関心があるのなら、何という先生が研究しているものか、確かめるのがいいですよ。病院に問い合わせることもできるでしょう。ただし、情報はいくら集めても終わりがありません。集めること自体が目的になってしまうのです。それよりも、ゆっくりご主人に寄り添う時間のほうが、大切ではありませんか。退院後の食事については主治医の先生とじっくり話してみたらいいですよ。

女性「本当に……そうですね。そうしてみようと思います」

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■「『病気』であっても、『病人』ではない」という考え方

「夫のために何かしたい」という女性の思いは決して間違っていない。だがそれゆえに目先の情報に追われて、疲弊寸前になってしまったのだ。

 ただしこの例はまだ「軽傷」で、中には本来のがん治療が手つかずになってしまっているケースもあるのだという。樋野氏は言う。

「セカンドオピニオン・ショッピングを続けるだけで、いっこうに治療法を決められない患者も実際にいるのです」

 一体なぜ、そんなことになるのか。理由のひとつは、その患者や家族ががんと診断されたショックの只中にいるからだろう。がんを告知されるのは「人生の大地震」であり、右往左往したり、うつ的症状が出るのは当然のこと。しかしその不条理を認めて、治療に向き合うことが大切だと樋野氏は語る。

「『病気』であっても、『病人』ではない。これは私の持論です。がんと診断された、その科学的事実としては、身体の一部ががんになったということでしょう。ほかの部分には何も変わりはない。いままでの生活をできる限り続けたらいいのです」

デイリー新潮編集部

2016年3月1日掲載

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